「な……なんだよ、あれは! 俺たちが見てること知ってやがるくせに、瞬にべたべたしやがって !! 」

太陽神の庭から瞬の姿が消え、その結界が解かれた時、最初に憤りを露わにしたのは星矢だった。

「うるさい!」 
「何だよ、氷河、おまえ、ムカつかないのかよ!」
「黙ってろ!」

氷河は、おそらく、不快だった。
腹も立っているはずだった。
だが、彼は、星矢のように単純には憤ってしまえなかったのである。

氷河は、今、自分がどういう感情に支配されているのかがわからなかった。

心臓が、異様に速く、強く、拍動している。
ひどく頭が痛んで、状況の理解ができなかった。

(どういうことだ…… !? 瞬は……瞬が……こんな馬鹿なことがあるわけが……。瞬が、本当に……瞬は──)

思考に、まるで論理性が伴わない。
断片的な単語だけが頭の中で空回りをし、ますます混乱がひどくなる。
いつの間にか、氷河の額には脂汗がにじんできていた。


「氷河、だいじょ──」
「うるさいっ !! 」

怒声を響かせてから、氷河は、自分がアテナを怒鳴りつけてしまったことに気付いた。

「──すみません」
まるで取ってつけたように謝りはしたが、実のところ、氷河は、そんな謝罪を口にするのも億劫なほど、頭が重かった。








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