「やっかいな生き物だな、人間というものは」

呆れた面持ちで呟く太陽神を、氷河が睨みつける。

唇の端を微かに歪ませて、アベルは氷河に向かって告げた。
「いや、大変結構。まあ、察していただけたと思うが、瞬は、君たちと闘い続けることに疲れたんだ。君たちの許に戻れば、また新しい闘いに駆り出されることになるのは目に見えている。瞬が、私の側から離れたくないと言うのももっともなことだと思うのだが」

「嘘をつけ!」
「なぜ嘘なんだ」

「嘘に決まってる、瞬に会わせろ!」

「私もそうするつもりでいたのだが、瞬が嫌だと言い張るのでね」
「瞬が俺に会いた──俺たちに会いたくないと言っているというのかっ !? 」
「今の瞬は、君たちと闘っていた頃の瞬ではなく、私に愛でられるだけの花だから」

「瞬と呼ぶなっ !! 」

自らを支配している感情の種類もわからないまま、抑え難い激情にかられて、氷河は再びアベルを怒鳴りつけた。

星矢がそれを見て、大きく横に頭を振る。
「ダメだ、こりゃ」

「氷河、出直そう。おまえ、全然まともなことを喋ってないぞ」

紫龍に掴まれた腕を、氷河は力任せに振り払った。
「瞬に会わせろっ!」

「氷河」
仲間たちの制止を意に介さない氷河の名を、それでも労わるように、アテナが口にする。
「氷河、あなた、本当に冷静さを欠いていてよ。今は、瞬が無事でいることがわかっただけでも──」

「やかましいっ !! 」
自らが戴く女神を、氷河は頭ごなしに怒鳴りつけた。

そして、氷河は、今度は謝罪もしなかった。








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