結局、沙織は、神の力を使わざるを得なかった。
氷河の身体の自由を奪い、その口を閉ざさせる。

それから、沙織は、いったんこの場を辞する旨を、兄でもある神に告げた。


「楽しい聖闘士を抱えているようだな、アテナ」
「アベル。人の心を弄ぶのはやめていただきたいのですけれど」
「弄ぶ? とんでもない。私は本気だよ。君の聖闘士たちは実に可愛い。羨ましい話だ。私の聖闘士たちは、どうも殺伐としていていけないな」

背後に控えている、彼の三人の聖闘士たちを一瞥し、アベルは苦笑を洩らした。

そんなジョークで済ませるつもりはないのだと、沙織が少々居丈高に兄に要求する。
「この太陽神殿への私たちの出入りを自由にしてください。でなければ、私たちは、あなたを信じることができません」

「事前に連絡をくれれば、いつでも開放しよう」

「…………」
存外にあっさりとアベルの首肯を手に入れて、沙織は少しばかり気が抜けたような表情になった。

ともあれ、今は、その約束を取り付けただけでも、よしとしなければならなかった。

瞬が、彼の手中にいるのだから――。








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