瞬はいつも、誰にでも優しかった。
氷河はそれでもよかった。
彼はそんな瞬を好きになったのだから。

だが、氷河は、瞬が誰かのものに――自分を含めて、誰かのものに――なるということを、これまで一度も考えたことがなかったのである。


そんなことが現実になる可能性があると思えていたならば、彼はとうの昔に自分の思いを瞬に伝えていただろう。

だが、そんなことがありえるのだと、氷河は思ってしまうことができなかった。
思えぬまま、眠れぬ夜を過ごし、幾度も、罪悪感を覚える悪夢に苦い後悔を味わってきたのである。


星矢や紫龍は気付いていないようだった。
あの太陽神は、あの庭で、わざと氷河にだけ見えるように、瞬の内腿に手を滑らせてみせた。
瞬は軽く瞼を伏せただけで、彼の手を拒んではくれなかった。


これは下種の勘繰りではない。

瞬はあの男と寝ている。
瞬があの男と身体を交わらせているのだ。


氷河は、仰向けに横になった寝台の上で、自分の顔を手で覆った。


それは、何でもないこと──のはずだった。

それが瞬でなければ。
瞬でさえなければ。

どこの誰が──たとえ、それが、自分が好意を寄せている人間だったとしても──、太陽神と寝ようが、主神と乳繰り合おうが、何とも思わない。

(だが、瞬は……。瞬は――瞬はひどく潔癖で、何も知らないくせに俺を恐がっていて──恐がっていた……。瞬は、俺の目を、いつも……)

瞬は、氷河がまとっている空気に、いつも敏感だった。
氷河が瞬に触れたいという思いを抱いた途端に、いつも目を逸らして遠くに離れていった。

だが、氷河は、いつの間にか、そんな思い無しに瞬を見ることができなくなり、だから――氷河も瞬から逃げたのである。

そんな思いを交えない仲間として振舞うことが不可能だと悟った時から、ずっと、氷河は 瞬から逃げ続けていた。

瞬を恐れさせたくなかったから。
瞬に怖れられたくなかったから。


だというのに――。








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