「何か?」

アトラスに連れられてアベルの許にやってきた瞬は、自分の連れてこられた場所がアベルの寝所なのに首をかしげた。

夜にはまだ間があるし、夕べもアベルの要求は激しかった。
日中はほとんど夜の疲れを癒すために過ごしているような瞬には、あれから半日も経っていない真っ昼間に寝所に呼ばれることの意味がわからなかったのである。

「おまえが欲しくなった。それだけだ。来い」
「あ……!」

最近は、瞬の身体を労わって、あまり無理を強いることのなくなっていたアベルに、乱暴に腕を引かれて、瞬は瞳を見開いた。

いつもなら、二人が寝台に入ると、控えている者が下ろす天蓋の帳を下ろさずに、アトラスが部屋を出ていく。

「あの……」
「今は、私とおまえしかいないのだから、構うまい」

寝台の半分に、陽光が注がれている。

「あ……っ!」
戸惑う瞬に委細構わず、アベルは瞬の身に着けていたものを剥ぎ取った。
陽の光を受けて、それでなくても白い瞬の肌が、夜の闇の中とは違う白さで、アベルの目を楽しませる。

その白い胸の、白とは違う薄い色を呈した部分に、アベルは唇と舌を絡ませてきた。
「あ…ん……」

瞬の戸惑いは、すぐに甘い溜め息へと変わった。
昨夜の愛撫の感触を完全には忘れきっていなかった瞬の身体が、すぐに熱を帯び始める。

昨夜だけでなく、その前の夜とその前の夜、一ヵ月以上一晩として途切れることなくアベルの愛撫を受けてきた瞬の肌は、アベルの指の癖、唇の熱さ、舌の感触すら覚え込まされていた。

「あ…ん……ん…」

瞬の内腿をなぞるように愛撫していたアベルの手が、そのまま、瞬の身体を開かせる。
視線で焦らされるのか、それともアベルの手に絡み取られるのかと思っていた瞬のそれに、  アベルはしばらく舌を這わせていたが、やがて彼はそれを口に含んだ。

「や……っ!」

瞬はアベルから逃れようとした。
おそらくは奉仕されることしか知らなかったのであろう彼が、瞬を愛撫するようになっただけでも、驚いていいことなのだと、今では瞬もわかっていた。
神としてのプライドを糧にして生きているような、仮にも太陽神が、人間相手にそんなことをするなど、瞬には信じられなかった。

いつもの彼と違う。
瞬は、ひどい困惑を覚えて、彼にその行為をやめさせようとしたのである。
が、アベルの身体は、戸惑いがちに伸ばされた瞬の手などにはびくともせず、逆に、瞬の足首を掴んでいた手に力を込め、更に大きく瞬の身体を開かせた。

「そ……んな、だめ、そんな……ああ……!」

その感触だけでなく味すら知っている熱く湿ったアベルの舌が、瞬自身を濡らし続ける。
まるで、身体を内側から舐められているような錯覚を覚えて、瞬は、戦慄にも似た快感に全身を大きく震わせた。
困惑の時を通り過ぎると、瞬の身体の震えが、小刻みに、間断ないものに変わっていく。

「気持ちいいか」

耐えきれないほどの歓喜に耐えようとして、シーツに爪を立てている瞬に、アベルが尋ねてくる。

「瞬、答えろ」

問わなくてもわかっていることを尋ねてくるアベルに、瞬は、堅く目を閉じて、幾度も横に首を振った。
それが否定の仕草でないことは、もちろん、アベルには問わなくてもわかっている。

「なら、もっと声を出せ。今日は誰もいない。おまえがどんな声をあげても、聞いているのは私だけだ」
「そ…んなこと……あっ……」

激しく上下する胸の動きをすら必死で抑えようとしている瞬の首筋に、アベルの左の手の指が絡みつく。
「そんなふうに、いつまで、未通娘のように恥ずかしがっているんだ。おまえは、これまで、幾度私に抱かれたと思う。私に見られていないところなど、もうどこもないではないか」


それでもきつく唇を噛んでみせる瞬を従わせるために、アベルは瞬の中に指を挿入した。
「声を出せ」
「ああ……っ!」

「おまえが毎晩気を失ってるのは、私が乱暴だからでも、求めすぎているからでもない。 おまえがおまえ自身のエクスタシーに耐えられなくなっているだけだ」

「ん……ああ……」
自分の身体の中に入り込んだアベルの指を、瞬は、まるで自分の内に飼っている蛇のように感じていた。
ゆっくりと、瞬の身体の内側の壁を、その蛇が伝っていく。
徐々に、それは、瞬の奥深くへと入り込み、やがて、瞬の理性を食い尽くしてしまうのだ。

「慣れて、感じやすくなって、今では自分から求めてくる」

「私が3日もおまえを相手にしなかったら、おまえは私の聖闘士たちの前に身体を投げ出しているだろう」

「おまえは、もう以前のおまえではない。すっかり淫奔になってしまった綺麗な獣だ」

アベルが、なぜ、今日に限って、そんな下卑た言葉を吐き続けるのか、瞬にはわからなかった。

「あ……あ!」

だが、そんな言葉すら、今の瞬には、やわらかい肌を刺激する愛撫でしかない。

「さあ、言え。どんな気分なんだ。私にどうして欲しい。言葉にして言わないと、これ以上何もしてやらないぞ」
「ど……うして……?」

「言うんだ!」

強く命じられて、瞬は一瞬びくりと身体を震わせた。
だが、身体の中に入り込んだ蛇は、もうほとんど瞬の意思を食い尽くしかけている。
そして、早く全部食い尽くされてしまわないと、瞬は気が違ってしまいそうだった。

蛇が――禍々しい鱗を持った蛇が――自分の内壁を食いちぎった――ような気がした。
途端に、瞬の口から、その痛みを訴える喘ぎ声が零れてくる。
「や…っ! い…いや…いやだ……いや、ああ……いや、もっと……いい……いや……あ…ああ……!」 

「それで」
「もっと……僕……いや……来て…もう……僕……」

「私が欲しいのか」
「ちが…う……あ…ん……あ…あぁ…!」

そんなものを求める自分は嫌だと思うのに、意思に、身体を従わせることができない。
瞬の腰は、重力よりも引かれるものに早く触れてほしくて、自然に少しずつ淫らに浮き始めていた。

「おまえは、身体の方がいつも正直だ」
皮肉に笑ってそう言うと、アベルは、既に瞬以上に耐え切れなくなっていたものを瞬の中にめりこませた。

「あああああ……っ !! 」
身体を引き裂かれるような痛みに、瞬が悲痛な声を響かせる。

だが、瞬の声の悲痛さに逆らって、むしろそれを合図にしたように、瞬の肉は歓喜してアベルのそれに吸いつき、蠢き始める。

欲しいものを手に入れた安堵で、瞬の荒い息使いは、徐々に、途切れ途切れの甘いすすり泣きに変わっていった。

「そうだ、もっと泣いてみせろ」
瞬の中に収めたままでそう命じるアベルの声も、少し掠れかけている。
彼の胸中に残酷な企みがなかったなら、彼はそのまま、いつものように、瞬の中に溺れてしまっていただろう。

「私を畏怖している聖闘士たちでさえ、おまえの泣き声を聞くと冷静ではいられなくなるらしいぞ」
「あん……あぁ……ああ……」

間断なく洩れる声のか細さとは裏腹に、今度は瞬がアベル自身に支配の手を伸ばしていく。アベルは、ぬめり、まとわりつく瞬の熱と肉の蠱惑に逆らい、必死で自身を保とうとしていた。

「おまえのこんな姿を見せられて、キグナスもさぞ呆れているだろう。無辜と清純の極みだと信じていたおまえがこんなに浅ましい──いや、奴自身もたぎってきているのか……」








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