「氷河……」

できるのだろうか。

「きっと解放してやるから、待っていてくれ。何があっても死なずに」

本当に、その時間を取り戻すことが?

「氷河……! 氷河、でも、僕……」

そんな夢のようなことが――そんな奇跡を起こすことなど、できるはずがない。

「み…見たでしょ、僕……」

それだけ言うのが精一杯だった。
そう言っただけで、瞬の身体は、自分でも情けないと思うほどに大きく震えた。

そんな瞬を、氷河の瞳が静かに見おろしている。

「おまえが死んだら、俺も死ぬぞ。俺を殺したくないなら、生きていてくれ」

「氷河……」

取り戻すことが本当に可能なのか。
それでもまだ恐れためらわずにいられない瞬に、氷河がふと尋ねてくる。
「それとも、おまえ、まだ俺が恐いのか」

「そうじゃなくて……!」
瞬は、そんな理由では、もう、ためらってはいなかった。

「そうじゃなくて……」

瞬は、今はむしろ、氷河が優しすぎ、寛大すぎることの方が恐かった。

「――俺が嫌いなのか」

「ど……どうしてそんなこと言うの……!」

切なげに訴える瞬に、氷河が微笑する。
「確かめたことがなかった」

「……うん」



確かめる必要は、もうなかった。

「必ず、助けに来る。待っていてくれ」


眼差しも、声音も、その言葉も──氷河のそれは、すべてが力強く優しい感触を持っていた。

今、こうして自分を慰撫してくれる氷河が、実在の氷河なのか、あるいは、彼を恋い求める自分の心が生んだ幻なのか、瞬にはわからなかった。


いずれにしても、アベルの結界に阻まれて、瞬は彼に触れることはできなかった。
彼も、瞬に触れることはできないようだった。

触れ合えないことが、苦しくてたまらない。



(あんなに恐かったのに……)

今は、触れ合いたかった。








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