「おまえなー、瞬の兄貴知ってるか? むちゃくちゃ瞬を溺愛してる奴だぞ。こんなことが知れたら、おまえは確実に一輝に殺される。おまえ、自分のしてること、わかってんのか?」 瞬の家族構成がどんななのか、俺は興味がない。 だから、瞬に兄貴がいるという話も初耳だった。 星矢の言う、その一輝とやらが、俺のしてることを知って怒髪天を突こうがどうしようが、俺にはどうでもいいことだった。 ただ――。 家族に愛されて愛されて育ってきて、そして今の瞬ができあがったのだという事実を知らされて、俺は、さもありなんと内心で頷いていた。 そう――なんだろう、やっぱり。 「やりたい盛りなんだ」 「だからってなー! 瞬はデリケートに扱ってやんねーと……」 「デリケートに扱わないとどうなるというんだ」 「――なんか……壊れそうじゃん」 瞬を図書館で待たせている。 とっとと着替えを済ませてロッカールームを出たかったが、俺は、さっきから、何のかんのと理由をつけられて、星矢と紫龍に引き止められていた。 で、他の部員が皆引き払うと、早速親切な忠告が降ってくる。 「壊れるもんか。瞬は……瞬の身体は強かだぞ」 「そーゆーことじゃなくて! ハートの問題だよ! おまえ、自分がサカリがついてるなんてこと、平気で瞬の前で言ってるじゃないか。まるで瞬を、その解消道具みたいに――」 どうやら、星矢は、瞬が男だということには頓着していないらしい。 呆れた忠告者だ。 俺も人のことは言えないが。 まあ、ともかく、そういう奴だから、俺でも、こいつとはオトモダチでいられるんだろう。 「瞬以外の奴には欲情しなくなった。瞬で解消するしかない」 そして、そういう奴だから、俺も綺麗事や嘘は言わずに済む。 「おまえ、以前はもっと冷めてたじゃんか、何にでも。なんか、今のおまえ、変に焦ってるみたいに見えるぞ」 “デリケート”とは対極の位置にいるガキのくせに、こういうところだけは妙に鋭い――と感心してから、俺は、星矢のその言葉が元々は紫龍の観察から出たものの受け売りだということに気付いた。 その紫龍は、星矢の横で、不機嫌そうな顔をしている。 「抱いてないと誰かに盗られそうだ」 「そんなことないだろ」 「瞬をどこかに閉じ込めて、瞬に会えるのは俺だけで……誰も瞬を見ない、瞬は俺しか見ない――。そんなふうだったら、10年やらなくても平気だ」 本当にそうできたら、どんなにいいか。 「俺は、瞬を、俺なしでは生きられないようにしたい。それだけだ」 「それだけって……」 俺のささやかな望みを聞いた星矢が、呆れたように顔を歪める。 「それだけのことを本当にしてのけた男は、人類史上、数えるほどしかいないだろうな」 口を開かなければ温厚篤実で通る長髪男が、掛けていた椅子から立ち上がった。 |