そうだ、瞬は、本当なら、俺なんかとはまるで違う場所で生きてる奴だ。

入学当時から目立ってはいたが、それも、俺みたいな悪目立ちじゃなく、そこにいると、柔らかい自然光に包まれているような――そんな目立ち方だった。
皆にちやほやされてるわけでもないが、瞬の側にはいつも誰かがいた。

俺のいちばん嫌いなタイプ。
だから、星矢が瞬をここに連れて来た時も――あの、害のなさそうな顔が気に入らなくて、俺は突っかかっていったんだ。


『みんなにいい顔して、可愛がられて、嫌いな奴はいない、嫌われたこともないって顔だな』

瞬は、初対面の上級生の攻撃的な口調に、少し首をかしげた。
そして、にっこり笑った。

『そうありたいと思ってます』
『馬鹿か、おまえ』
『そうかもしれません』
『俺は、貴様みたいな奴が大嫌いだ』
『それは……とても残念です』

掴みどころのない反応だった。

別に気負っているようにも見えなかったし、俺に嫌いだと言われたことを喜んでいるようにも見えなかった。

俺は、そういう誰にでも好かれるタイプの奴は、人に嫌われることに敏感で、誰かに嫌いだと言われれば、派手に傷付いてみせるのだろうと思っていたが、瞬はそんな様子も見せなかった。

俺は――そうだ、妙だと思ったんだ。

『とにかく、おまえみたいな奴は気に入らない。いるだけで不愉快だ。見るからに偽善者のツラをしている』
『そう見えますか』
『見える』
『じゃあ、そうなのかもしれませんね』


あれが、ついひと月前までは中学生だったガキの対応だったろうか。
俺はキツネにつままれたような気分になって――馬鹿なことを口走っていた。

『──嫌わずにいられるのか?』
『え?』
『こんなことを言う俺を、おまえは嫌わずにいられるのか?』
『そう思いますが』

あっさりと――気が抜けるほどあっさりと、瞬は答えた。

『誰にでもそんなことを言うのか』
『わかりません。そんなこと聞かれたの初めてだから』
『俺を――愛せるのか』


そう尋ねた俺を、瞬は短い時間じっと見詰めて、そして、こくりと頷いた。





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