だいたい、この俺が『愛』なんて言葉を口にしたこと自体、おかしかったんだ。
本当はもう、あの時に、俺は瞬に捕まってしまっていたのかもしれない。


瞬は、あの時、俺の言った『愛』をどんなものだと思っていたんだろう?
せいぜい、家族に向けるような情愛か、もしかしたら人類愛のようなものだと思っていたのかもしれない。

俺は、瞬の言葉を疑いつつ、その本性を見極めてやろうと――最初はかなり意地の悪い目で瞬を見ていた――と思う。

だが、瞬は、そんな俺にも優しくて――瞬の側にいるのは気持ち良かった。


そのうちに、俺は、瞬に嫌われるのが恐くなっていったんだ。
瞬に見捨てられるのが恐くなった――と言うべきかもしれない。
瞬に見捨てられたら、もう誰も俺を好きでいてくれる人間はいない――そんな気になった。

瞬を失うのが恐くなって、騙し討ちのようにして家に誘い、俺のものにした。
あれはほとんど無理強いで、瞬は泣いてた。

さすがに罪悪感を覚えて謝ったら――あきれたことに、瞬はあっさりと自分を強姦した男を許してくれた。

泣きはらした目をこすりながら家に帰り、翌日には俺に笑顔を見せさえした。
それだけならまだしも、俺が誘うと瞬はまた俺の家にやってきた。
無論、俺に何をされるのかはわかっていた――だろうと思う。

最初のうちは、俺もそれで満足していたんだ。
誰にでも優しい瞬の、俺は特別な存在なんだと思って。


だが――。

瞬は変わらなかった。
相変わらず、誰にでも人当たりのいい態度で接して、誰にでも笑いかける。

俺のものになったのに、俺を特別扱いしてくれない。

俺は、徐々に苛立ち始めた。

俺が欲しがると、瞬は自分を俺にくれた。
だが、それも、俺が欲しがるばかりで、瞬が俺を欲しいと言ってくることは一度もなかった。


――俺のもののはずなのに、俺は、どうしても、瞬を俺だけのものだと確信できない。

もうずっと、そんなどっちつかずの状態が続いている。


俺は瞬を失いたくない。
他のだれにもやりたくない。
見せたくない。

瞬が俺のものだという確信が欲しいのに、それが手に入らない――。
多分、だから、俺は、いつ人が来るかもしれないようなマナビヤで瞬を抱くなんて馬鹿な真似を続けてるんだ。
瞬が俺のものだということを、誰かに見せつけてやりたくて。
瞬に、そう思ってもらいたくて。





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