図書館で瞬を拾い、帰宅した。

お決まりのコース、幾度も繰り返した手順を踏んで、身体だけ満足すると、俺は、ふと思いたって瞬の喉に手を伸ばした。

白くて細い瞬の首は、簡単に片手で掴みあげられる。
まだ、平時の呼吸に戻っていない瞬の喉にまわした指先に、俺は力を込めた。

「ここで殺してやったら、おまえは俺だけのものになるな」
存外、俺の口調は真剣だったと思う。

瞬は、俺の顔をじっと見詰めて、そして微動だにしなかった。

「逃げないのか」
「この格好で?」

瞬が小さな苦笑を漏らす。
俺が本気だとは思ってもいないのかもしれない。

「この格好で殺される方がずっと大変だろう。警察が来て、事件が明るみに出て、俺との関係をスキャンダラスに脚色した噂が出回って、おまえの家族は世間に顔向けができなくなることになるかもしれない」
「僕がここで死んだら……氷河は、僕の死体を、氷河しか知らないところに隠すでしょう? 誰かの目には触れさせない。だからそんな心配は必要ないと思う」

馬鹿げた俺の話を聞かされて、瞬は微かに目元を細めた。
そこまで察することができるのなら、俺が半ば本気でいることも、瞬には理解できているのだろう。

俺には、瞬が、まるでわからなかった。

瞬は、その全部を俺に委ねているようにも見える。
でも、俺のものだという気がしない。
だから、俺だけのものにしたい。
したいのに……!

「なぜ、俺だけのものにならないんだ……!」

満足したはずの身体が、満たされていない心に急き立てられて、また、瞬に向かう。

瞬の掠れた悲鳴を、俺はキスで封じ込めた。


友達、家族、学校、時間、空間。
俺と瞬の周りにある邪魔なもの一切。
その全部を排除することができないなら、瞬を、俺の中に閉じ込めてしまいたかった。





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