「まだ、城戸邸にいるのか」
「……うん。でも、今はあそこには誰もいない。僕ひとり」
「…………」

俺は、瞬を俺の部屋に誘った。

「そうだね、今の氷河の暮らしを見てみるのもいいね」
さらりと、隙を見せずに、瞬は頷いた。



何もない部屋に瞬がいる。
俺の心のように殺風景なその部屋を見渡して、瞬は少し同情するような視線を俺に投げてきた。


この部屋に置きたいと思うものを、一つも見つけられずにいたんだ、俺は、この5年間。

テーブルもない。
かろうじてあるのはベッドとチェストだけ。
冷たい木の床に、俺は瞬を座らせた。


冷蔵庫を置くためだけにあるキッチンから、その箱の唯一の住人である酒とグラスを持ってくる。

「飲めるようになったのか」
尋ねると、瞬は横に首を振った。

「酒以外、何もない」
「いいよ。喉渇いてないから」


――俺の喉は渇ききっていた。





【next】