王子様の条件




first step






「瞬様」

半年振りに見る自分の元の主のために、氷河は、逸る気持ちを抑え、無理に落ち着いた声音を作った。
「浮かぬ顔をしておいでですね」

半年会えずにいた間に、彼の可愛い公爵の風情は、ますます花のそれに似通ってきていた。


広大な公爵邸の本宮殿は手入れされることもないまま、放置されている。
瞬は公爵邸の庭の片隅にある小さな離宮で、数人の召使いたちと暮らしていた。
血統と格式ならば現王家のそれに劣るものではないのだが――事実、瞬は、この国で唯一人、公爵位を許されている人間だった――公爵家の財政は相変わらず傾いたままらしい。

諌言ばかり吐いて世辞の一つも言えない生真面目な家臣だった前公爵――瞬の父――が、国王に疎まれ国政の場から退けられてから随分と長い年月が経つ。

難癖をつけられての領地の没収が、公爵家の財政を逼迫させていた。
今では没収する領地も皆無に近く、国王の機嫌を損ねてばかりいた前公爵が亡くなった後には、国王はこの国に公爵家が在ることなど、綺麗さっぱり忘れてしまっているようだった。

要するに、この国唯一の公爵家は、その格式の高さにも関わらず――有り体に言えば、貧乏貴族だったのである。






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