主と言っても、瞬は、氷河より10以上年下の13歳。
その大きな瞳が、瞬の表情を年齢よりも幼くしている。

氷河が瞬に仕えていたのは、5年以上も前の、それもほんの1年ばかりの短い間だった。
瞬の今は亡き父が、語学の習得という名目で、息子のために雇った家庭教師が氷河だった。

現国王への反逆者として処刑された氷河の父と瞬の父は古い知己であったらしい。
瞬の父が、公爵邸に、氷河を瞬の家庭教師として招き入れたのは、彼が氷河の生活の面倒を見るための建前だったのかもしれない。
それなりの家格の出であった旧友の遺児の窮乏を知った瞬の父が、旧友を救えなかった罪滅ぼしとして為したことだったのだろう――と氷河は推察していた。

公爵家と公爵領の財政は、その時、既に火の車だった。
旧友の遺児の生活の援助をするどころか、ここまで国王の覚えめでたくない公爵家に氷河を留め置くことの危険を察して、雇い入れた1年後には、公爵は氷河を解雇した。


幼かった瞬は、苦労を重ねてきただけに世情に通じている氷河の話を聞くのが楽しかったらしく、随分と氷河に馴れていた。

氷河が公爵家を辞する時には、
「もし、僕の家がもっとお金持ちで、もっと力を持ってたら、氷河はどこにも行かずに済むの?」
と泣きべそをかきながら、氷河にしがみついてきた。


氷河は、その後、語学力と、特権階級だけでなく民情にも通じているところを買われ、王家の諜報機関に招請された。
以降、諸外国の事情を探ることを生業として近隣各国を転々とする生活が続けているが、主従関係がなくなった今でも、この国に帰ってきた時には必ず瞬の許に立ち寄ることにしている。

貴族と庶民の両方の暮らしを知り、洞察力にも長けている氷河は、機関の中ではそれなりに重宝され厚遇も受けていた。

反逆者の息子という烙印のせいで、公式の地位を与えられることはなかったが。






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