氷河が指定された時刻に王宮に入ると、例の謁見の間の控え室には、今日も黒衣をまとったハーデスがいた。
「急に王の許に隣国からの入貢があってね。長引きそうなので、しばらく君のお相手をしているよう言いつかった」

時を過ごすのにハーデスの接遇など、氷河にはいらぬ世話というものだった。

侍従に王の様子を尋ねようとするたびに、無意味な会話を繋いで、それを妨げてくるハーデスの様子を訝りながらも、氷河は彼を無視して侍従の呼び出しを待ったのである。

ハーデスのそれが時間稼ぎなのだと気付くまで、氷河が相当の時間を要したのは、彼の中に、王侯との接見は待たされるものだという既成観念があったからだった。

いくら何でも待たせすぎだと思い至った途端に、氷河は王の企みに気付いた。
彼の目的は瞬なのだ。

(瞬様……!)

それでもその場に引きとめようとするハーデスを黙殺して、氷河は馬を繋いでおいた厩舎に向かって駆け出していた。






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