獄舎は、王宮の北の外れにあった。
宮殿とは小さな林で隔てられており、監房は地下にある。
王宮の敷地内に獄舎を置くのは、王が囚人の悲惨を見物するのに都合が良いからで、つまりは王の優越を誇るためだった。
瀟洒な王宮内で、その建物だけが陰鬱な翳りをたたえている。


地下に降りきったところにある鉄の扉の前で、ハーデスは足をとめた。
「私はここにいる。今ここに収容されているのは彼ひとりで、他の牢は空だから怖くはないだろう」

「あ……ありがとう。ごめんなさい、こんなこと――ほんとはあなたも危険なんでしょう?」
「いや……」

思わぬことで礼を言われて戸惑うハーデスの表情に気付く余裕もなく、瞬は、冷たい監房の並ぶ石の廊下に向かって駆け出していた。






【next】