「氷河……!」

鉄柵は、成人男性の腕がやっと通るほどの間隔しかなかった。
その向こうに粗末な寝台があるきりの、小さな独房。
そこに、瞬は自分の騎士の姿を見い出した。

まるで10年も会えずにいた人に再会したような切なさを、瞬は、牢の中の囚人に覚えた。

「瞬様……!」

寝台に腰を下ろし、石の壁を睨みつけていた氷河が、瞬の声に弾かれたように顔をあげる。

「氷河、ごめんなさい……! 僕のせいで――」
「瞬様……このようなところに……」

驚きつつも、氷河が、彼と彼の主人の触れ合いを妨げる鉄格子の側に駆け寄る。
無粋な鉄の柵を間に置いて、ふたりは互いに懐かしい人の姿をその瞳に映し合った。

言いたいこと、聞きたいこと、確かめたいこと、確かめたくないこと――が、たくさんあった。
だが、ふたりは、そのどれも言葉にはできなかった。


瞬が鉄柵の間から手を伸ばし、氷河がその白い手を押し頂く。

「いや、もういい。瞬様がご無事で生きていてくださりさえすれば――生きていてくださりさえすれば……。それだけが心配でした」

今は、それしか――手で触れ合うでことしか、互いを抱きしめることができない。
だが、それは、氷河と瞬にとって、これまでのどんな抱擁よりも強く熱いものだった。

「浅慮なことをいたしました。ですが、私はもともと公爵家とは縁もゆかりもない者、瞬様が連座させられるようなことは――」

我が身より、その命より、瞬の身を気遣う氷河の言葉を、瞬は遮った。
「きっと……! きっと、僕が氷河をここから出します! 何があっても、処刑などさせない。きっと僕が……」

「瞬様、何をなさるおつもりですか」
瞬は、それには何も答えなかった。

「きっと、僕が、氷河を助け出してみせます……!」
「瞬様、私のことなど、もうお見捨てください!」

氷河の懇願に、瞬は首を横に振った。
そうしなければ生きていけないのだから――自分が生きていくために必要なことをするだけなのだから――と、瞬は言葉ではないもので氷河に訴え、氷河に微笑を向けた。






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