「どうです、陛下。不幸な恋人たちの束の間の悲愴な逢瀬だ」

鉄の扉の陰から、ハーデスは、自身の背後に立つ壮年の男に、振り返ることなく声をかけた。

「哀れだな。良い見世物だが」

闇の中で、この国の支配者が低い笑い声を響かせる。

「公爵は、愛しい騎士殿を救うために、陛下の前にその身を投げ出すことでしょう。陛下の命を奪うなどということは考えられない子だ。そうするしか手はない」
「他の男を思って泣く公爵を、思う存分陵辱できるというわけだ。良い趣向だな」

大層な手柄を立てた寵臣の肩に、王が手を置く。

「さて。先に戻って、公爵の来るのを待つとするか」

ハーデスがその手を振り払うより先に、王は満悦の体ていで踵を返していた。




(――公爵殿、騎士殿。さて、それでも光の中にいられるか)

酷薄な微笑を口許に刻んでから、ハーデスは、自分はいったい王と瞬たちのどちらの味方なのだろうと自身に問いかけて、自嘲した。






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