「やあ、騎士殿。牢獄は快適かな」

ハーデスが次に氷河の収容されている牢獄にやってきた時、氷河は二日前に地下牢から出されたばかりだった。

牢には違いないが、そこは獄舎の最上階にある個室で、窓からは陽光が入り、心地良い風を採り入れることもできる。
そこは死刑囚の入る部屋ではなく、些細なことで王の機嫌を損ねた貴族を一時的に軟禁するための部屋だった。


最初の変化は食事だった。
それまで、ほとんど水しか与えられていないも同然だった食事が、急に豪勢なものに変わった。
そして、衣服。
寝台しかなかった独牢から、浴室付きの部屋に変えられ、今は貴族用の個室である。
死刑囚だったはずの氷河の待遇は日々良くなる一方で、それがどういう意味を持っているのかが、氷河にはまるでわからなかった。


ハーデスは、その、牢とは名ばかりの貴族用の居間にやって来て、ひどく楽しそうに氷河に声をかけてきたのである。
彼の後ろには、獄吏の姿さえない。
こんな死刑囚の扱いがあるのかと、氷河はむしろ腹を立てた。

自分の知らないところで、何かが進展している。
国政に関する知識はあっても、政治力は皆無のはずの瞬が、死刑囚の待遇を良くするためにいったい何をしているのか──氷河の苛立ちと不安は抑えようがなかった。






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