seventh step





王位継承者選定の儀式は、数日間に及ぶ公開裁判のようなものだった。
否、むしろ、それは祭りと呼ぶべきものだったかもしれない。

この儀式自体、過去数百年の間に二度行なわれた例があるだけで、そのいずれもが、一方の候補者が選定を辞退して終わっている。
それは、伝統のある、だが、この国で初めての祭りだった。


王宮の広間は、原告席と被告席をそれぞれの候補者の席に変えた法廷のようになっていた。
裁判長席に王が就き、書記官席に判定者、そして、法廷を取り囲む傍聴人席には、この祭りを一目見ようとやってきた貴族や学士院の指導者たちがいる。

次代の王が決まるというので、それまで王に疎まれ遠避けられていた者たちまでもが、僅かな期待を胸に王都に繰り出してきたらしく、選定場は人いきれがしていた。


王の横には、珍しく、王妃の姿があった。
継承者に選ばれた者は王夫妻の養子になるのだから当然のことではあるが、それにしても王妃の姿を見るのは数年振りという者たちが多く、彼等はもっぱら、彼女の容姿の些細な変化を見付けては、それを口の端にのぼらせていた。
と言っても、影の薄い王妃に関する話の種はすぐに尽き、それは哀れみの言葉で締めくくられて、間もなく終わってしまったが。

夫に幾人もの実子を殺された栗色の髪の王妃は、祭りの中にあって、ひとり憂い顔だった。
幼い少女の頃、人質同然にこの国に嫁がされてきた王妃は、まだ30代の半ばだというのに、人生を諦めた老人のように無感動な目をしている。

それなりに美しくはあった。
が、形だけが整った美しさには、まるで動きがない。
瞬きを確認できないほどの位置にいる見物人たちの目には、それは人形か死人のように映っていたことだろう。


その王妃が、ふたりの候補者たちが王と王妃の前で選定に挑む誓詞を述べた時、少しばかり表情に変化を見せた。
たとえ血は繋がっていなくとも我が子と呼べる者を得られることは、子を失った母親には喜ばしいことなのだろうか。

ふたりの候補者たちには、王妃の表情が陰ではなく明の方向に動いたように見えた。






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