氷河が、酒倉を出ていくと、ハーデスは、彼がここにやってくるまで氷河が凝視していた誓約の杯の縁を、右手の指の爪の先で弾いた。

僅かに黄味を帯びた白銀の真鍮でできた杯が、ピンと甲高い音を周囲に響かせる。


「……ふん。これが惚れた弱みというやつか」


その気になれば、どこまでも堕とすことはできるはずなのに。

人は、恋をした相手には、いつまでも恋に落ちた瞬間の姿を保っていてほしいと願ってしまうものらしい。

「それで、何が報われるわけでもないというのに」


氷河が“馬鹿”な理由を、ハーデスは初めて理解したような気になっていた。






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