瞬の言葉を単純に喜んでしまっていいものかどうか、氷河は咄嗟に判断ができなかった。
瞬は、あの王が、我が子を殺してまで執着するものの価値を知らない──認めないというのだろうか。


「瞬様……。王位継承者になったら――王になったら、どんな贅沢も思いのままになります」
「僕、あのごてごてした宮殿は趣味が悪いと思うの」

「人々は無条件で瞬様を畏れ敬うでしょう」
「僕じゃなくて、王位とその権力を、だよね」

「人を意のままに動かせます。」
「その人の意思に反してるのなら、それは暴力にすぎないでしょう?」

「……人を踏みつけにし、その尊厳を奪い、屈服させることもできる」
「そんなことする人は不幸な人だと思う」

「しかし、権力を持っていなければ、人は屈服させられる側の人間にります」
「僕は屈服しない。したくない」

「言葉で言うのはたやすいものです」
「しない。氷河がいてくれたら、きっと」


瞬は、真っ直ぐに氷河を見詰め、言いきった。
「僕は屈服しない」



だから、氷河は、瞬の呪縛を取り除く決意をしたのである。






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