瞬がどうしてほしいのか、氷河にはすぐにわかったし、彼はその通りにした。
瞬の鼓動が、徐々に早くなる。
先程の“意地悪”の名残りのせいで、瞬の身体が熱くなるのに長い時間は要さなかった。

そして、身体に火がつくと、瞬は途端に凄艶になった。

「ひょ……が……」
小さな主人の身体を貪っている氷河の髪に手を伸ばす。
そのすぐ横に瞬の膝があった。
瞬に名を呼ばれても、氷河はもう瞬の唇には戻ってこなかった。

瞬が、氷河の髪に指を絡めて――絡めるというより、掴んで――胸を大きく上下させながら尋ねる。

「氷河……は、知ってるんだよね?」
「はい」
「僕がどうしてほしいか知ってるんだよね?」
「はい」

「教えて」

頷いて、氷河は身体を起こした。
焦らすこともできなかった。

氷河自身が、早く瞬を知りたいと訴えている。
そして、瞬自身も。

「瞬様、お許しください」
頷く代わりに、氷河の肩に置いた瞬の手に力がこもる。
その手が次の瞬間、硬直した。

瞬は、自身を刺し貫いてくるものの鋭さに、狂気に襲われたように戦慄し、氷河は彼を絡め取ろうとする瞬の熱と複雑さに飲み込まれそうになった。

瞬が、短く、瞬らしからぬ掠れた声の悲鳴をあげる。
瞬の中に押し入ってきたそれは、瞬が覚悟していたものよりはるかに大きな力だった。
あまりの衝撃に、瞬は呼吸を忘れた。

今、自分の中にいるのは氷河なのに――あの残酷な目をした王ではないのに――瞬を襲ってきた痛みは、王のそれをはるかに凌駕していた。

こんなに痛いのにどうして、こんなことを自分は自ら氷河に求めていったのだろう――そう思う側から、氷河を自分の内に引き込もうとしている自身の身体に気付く。

気付いた途端に、瞬の感覚は狂い始めた。
痛みが、潮が引くように薄らいでいく。
だが、それはただの錯覚にすぎなかった。
錯覚にすぎないことが、時を置かずして、瞬にはわかった。

もっと痛くなればいいと、瞬は思い始めていたのである。


氷河が繰り返し、自分の名を呼んでいる。

そのたびに、瞬の身体の奥には衝撃が走り、むしろ、氷河が身体を引くたびに、瞬は切なさに声をあげた。

ずっと、このまま、氷河を自分の中に引きとどめておきたい。

なぜそう思うのかはわからなかったが、それが不可能なことが、悲しくてならない。
切なくて切なくて、瞬は身悶えずにはいられなかった。






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