True scenery






「ゆっくり、静養してちょうだい」
アテナの微笑は、傷付いた彼女の聖闘士への慈愛に満ち満ちていた。


(医師や看護婦たちには、瞬とハーデスの関係は知らせないように注意しなくては)
そして、グラード財団総帥という社会的地位を持つ城戸沙織の思考は、全てを丸く収めるために、めまぐるしく活動していた。


「もう、闘いは終わったの。何も考えないで」
(ハーデスのグレイテスト・エクリップスの犠牲者が、この医療センターの所員の中にもいるかもしれない。瞬のことが知れたら、面倒なことになるわ)

「一輝も氷河たちも、みんな元気だから、あなたはまず自分の身体のことだけを考えて」
(星矢は死ななかったのが不思議なくらい。瞬の責任じゃないわ。私のせい。瞬の責任じゃない、悪いのはハーデス。瞬の責任じゃない、瞬には何の罪もない。星矢は死なずに済んだ、瞬の罪じゃない……)

一人の少女としての心が、グラード財団総帥の思考の中に割り込んでくる。
瞬には、それがいちばんこたえた。


それは、アテナの聖闘士たちの抵抗によって、地上の支配を断念せざるを得なかった冥界の王の、意地の悪い置き土産だったのかもしれない。

長い悪夢から目覚めた時、瞬は、人の心が読めるようになっていた。






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