瞬が閉じこもっていた部屋に、瞬の仲間たちが、『面会謝絶』のプレートの取れたドアから入ってきたのは、その日の午後のことだった。

星矢は明るく、紫龍は穏やかに、見慣れた微笑を浮かべている。

氷河は、ベッドの上に上体を起こしている瞬の姿を見ても、何も考えなかった。
言葉も思考もなく、無言でただ瞬を凝視した。
漠然とした深い安堵の感情だけが、瞬の許に届けられる。

「あ……」

その時になって、瞬は初めて、自分が、この無愛想な金髪の仲間の心に大きな負担を強いていたことに思い至った。
「ご……ごめんね、氷河。もう、駄々こねないから」

「みんな、待ってるんだからな、瞬」
(特に、どっかの飢えたオーカミが)

星矢の、仲間を思い遣る言葉と、氷河に呆れ果てている思念。

「城戸邸で、にぎやかにしてれば、そのうちに気も晴れるさ」
(瞬は考え過ぎてるんだろう。考えてもどうにもならないことを。失われた命は取り戻せない。無意味だ。だが、その無意味なことをせずにいられないのか、人間というのものは――瞬は……)

紫龍の、瞬を力づけるための言葉と、現実を見据えた思考。

「…………」
瞬は、しかし、紫龍のその仲間を買い被っている思念に、胸を突かれる思いを味わうことになってしまったのである。

この部屋に閉じこもっている間、瞬は、そんなことなど――失われた命のことなど――ほとんど考えていなかった。
ただ、他人の心を読めてしまうことが恐ろしくて、その恐怖に怯えてばかりいた。

言葉とは裏腹な人の思考に恐怖し、それどころか嫌悪すらしていた自分自身に、その身勝手と醜さに、瞬は唇を噛み締めたのである。
人をどうこう言えるほど、自分は立派な人間ではないのだ――と。



その、消沈しかけた瞬の心の中に、突然、強い思念が割り込んでくる。


(やりたい)

(え…… !?)

それは、彼の仲間たちから離れ、瞬の“個室”の壁際にひとり立っている氷河のものだった。

(やりたい、やりたい、やりたい)

「あ……」


( 瞬が俺の下で喘いでいるのを見たい
たっぷりいい気持ちにさせてやって
脚を開かせて、恥ずかしがる瞬が見たい
瞬のあそこは、肉が柔らかで、熱くて、
そこだけ別の生き物みたいに、俺に絡みついてくる
俺のあれに馴れてる
とっとと脱がせてやりたい
瞬は、そこいらの女なんかよりずっと
泣かせてやりたい
たまらない
何回でも
早く
俺だけの――)


「あ……あ……」
思考だけでなく、氷河の形作っているそのイメージが、瞬の中の視覚を稼働させる。

氷河の中で、あられもない姿態を晒している自分自身を見せられて、瞬の体中の血のすべてが頭に昇ってきた。
頬ばかりか耳朶までが、朱の色に染まる。

心配していたものとはまるで趣の違う氷河の思念に、瞬の身体は硬直してしまっていた。

「瞬、熱があるのか?」
(やっぱり、お預けか……。病室に押しかけてきてもいいんだが、瞬が嫌がるだろうし)

氷河が、瞬の枕許に歩み寄ってくる。

「あ、あの……」

「無理はしない方がいいぞ」
(後でたっぷり可愛がらせてもらうからな。俺はいい加減、限界に来てる。もう少し待てばできるんだと思うと、自分でヤる気にもならんし。もったいない)


(氷河、お願い……! そんなこと、もう考えないで……!)
氷河の思念を聞きながら、星矢たちの前で平静を装い続けることは、瞬にはとてつもない試練だった。


瞬のシリアス極まりない懸念とは裏腹に――あろうことか、氷河の中にあるものは、実にオスのそれだけだった。






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