( 瞬だ、俺の 久し振り やわらかい 可愛い 暖かい 俺のものだ 他の誰にも 俺のものだ、瞬のここもここも 好きだ、瞬 やっと抱ける――) 見知らぬ他人の邪気に満ちた思念に比べれば、瞬にとって、氷河の“言葉”は愛撫にも等しいものだった。 ( ああ、反応がいいな 瞬も我慢してたわけだ こんな可愛い顔して そんな気もないような顔をして もう、こんなだ だいたい、あの闘いなんてものが邪魔 瞬以外の奴は邪魔 みんな消えてなくなればいい いらない そうすりゃ、毎日、朝から晩まで やりまくって 余計なことをせずに 考えさせずに 瞬がどんなに泣いて嫌がっても どうせ、こうしてやれば、瞬は俺の言いなりで――) 自分勝手とも思えるその思念も、見知らぬ他人のそれに比べたら、可愛いものだと感じることができる。 ( 気持ちいいか? もっと良くしてやる 俺だけを見てろ 他の奴は、こんなに良くしてやれないぞ だから、瞬、俺だけを) ( ああ、そろそろあそこがひくついてくる頃か 慌てなくても、すぐに触ってやる いつもより早い 俺の指に吸いついてくる ひくついて、欲しがって、女よりおまえは) ( それでも脚を閉じようとするのか 無駄な 何度やっても、処女みたいに どうせ、すぐ自分から開いてくるくせに 舐めてやろうか) 「氷河……っ!」 瞬は、氷河の愛撫よりも、彼の間断無い言葉の連なりに混乱し、翻弄され、感じていた。 ( 欲しがってるのは、俺の方も同じか まだ、駄目だ 大人しくしてろ おまえ、今、瞬の中に入っていったら、すぐに終わっちまうぞ もっと、瞬をおかしくしてからだ 待ってろ 瞬のここに負けて、あっさり終わっちまったら、つまらんだろーが 格好も悪い) ( 暴れたくなるのはわかるがな もう少し我慢しろ 我慢) ( 早く瞬の中に 瞬のここは、絶品 締めつけが 肉の絡み 蠢いて 我慢) ( 瞬を知らない野郎どもは哀れだ この世にこんな天国があることも知らずに一生 瞬のここなしじゃ、俺はもう――) 「ああ……っ!」 (そんなこと考えないで。言葉にしないで。僕、おかしくなる。氷河、やめて……!) 氷河が、いつもそんなことを考えて、自分の肌にむしゃぶりついていたのだということを、瞬は知らずにいた。 (氷河、やめて。もう黙って。わかったから、僕は氷河のものだから、何でも氷河の言う通りにするから、もう、これ以上……!) ( 瞬が…… ああ、欲しいのか 瞬――) 「瞬……いいか?」 ( いくら久し振りでも 忘れてはいないだろう? こいつは、気持ちいいが、痛いんだ おまえはいつも、痛みを忘れるために 俺を飲み込んで 俺のこれを自分に同化させちまおうとする) ( こんな可愛い顔をして 頼りなげな顔をして おまえのここは、いつも 俺を欲しがってる) ――氷河の思考の断片。 それが、もし、氷河以外の誰かのものだったなら、瞬は、下劣の極みと軽蔑してしまっていたかもしれない。 それが氷河の作るものだから、瞬の身体は熱くなるばかりだった。 瞬は、氷河のために身体を開いた。 力を抜くことはできない。 それが痛みを増すことになるとわかっていても、瞬は、久し振りの氷河を、全部の神経と感覚とで感じたかった。 言葉ではなく――言葉だけではなく、全てで。 氷河が、瞬の中に入ってくる。 瞬は、悲鳴に似た声をあげた。 間断無く瞬の中に飛び込んでくきていた氷河の思念が聞こえなくなっていく。 氷河は言葉で思考を形作るのをやめたらしかった。 瞬にはもう何も読みとれない。 代わりに瞬は、言葉の向こうから、何か熱いものが迫ってくる感覚に襲われた。 欲と愛情とが――欲する心と与える心とが――熱した溶岩の塊りのようになり、それが身体を通して、瞬に襲いかかってくる。 (なに、これ……なに? 飲み込まれる……!) それは、これまで感じたことのなかったもののようであり、いつも氷河と身体を交えるたびに感じていたもののようでもあった。 言葉ではない。 氷河のそれはどんどん大きくなっていく。 今は、氷河が、その心の内で繰り返しているのは、瞬の名前だけだった。 声は無く、速い呼吸だけが続く。 瞬は、氷河の中から送り込まれてくる、その熱いものに飲み込まれてしまうような錯覚を覚え、それを受けとめるために、あるいは逃げようとして、必死に氷河にしがみついていた。 痛みも快感も言葉も思念も、もう無い。 一つのものになってしまえば、それはもう必要のないものだった。 ただ、今の自分たちの状態を、恐ろしく自然で当然のものだと感じる思いだけが、そこにはあった。 氷河が終わりの合図を送ってよこす頃、瞬は既に意識の半ば以上を手離していた。 氷河と繋がっているところだけが、瞬自身とは別の命を持ったもののように生きている。 それは、氷河と身体を交えるようになった最初の頃には、よくあったことだった。 瞬は失神していた。 |