瞬の主張を事実と認めた氷河は、無表情で慌てた――らしかった。

(筒抜けか。マズいな、これは……)
(俺が瞬といる時に考えていることといったら……)

(本当にマズい。あれが全部、筒抜けか?)

この期に及んで、そんな呑気なことを考えている氷河に、瞬は段々腹が立ってきてしまったのである。

「まずいのは僕の方だよっ! 知りたくもないことがどんどん聞こえてきて、人がにっこりしながら、裏で何考えてるのかがわかっちゃって、僕、もう、気が狂いそう……!」

「俺が助平なことも――」
「氷河がいつも、あんないやらしいことばっかり考えてるなんて、僕、全然知らなかったよっ!」

「う…ぐ……」
瞬に怒声を叩きつけられた氷河は、奇妙な呻き声を洩らして、手で顔を覆った。

そういうことでショックを受けている氷河への憤りが、瞬の中で更に大きく膨れあがってくる。
氷河が助平だろうが色気違いだろうが、そんなことは、この際問題ではないのだ。

「氷河はいいの、氷河は。星矢や紫龍や沙織さんのそれも、まだ平気。でも、他の人は――恐いくらい悪意に満ちてる。みんな、表向きは優しそうな顔して、親切そうなこと言って、その裏では……」

知らずにいれば、幸せでいられた。
人は善意に満ちた存在だと信じていられた。

瞬は、他人の悪意や害意などより、自分が人間の善良性を信じられない自分になってしまったことに、やり場のない苛立ちを感じていたのである。

何も知らないままでいたかった――。
それが、瞬の本音だった。


「人間が、こんなに醜くて意地の悪いものだったなんて!」

瞬の、悲しみより怒りの勝ったその叫びを聞いて、それまで、自分のスケベ心にめげているばかりだった氷河が、ぴくりと眉を動かした。






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