「おまえが読んでいるのは――」 氷河の声音には、瞬のそれ以上に、怒りの色が濃く含まれていた。 「おまえが知ったつもりになっているのは、ただの表層意識だ。ただの言葉の羅列、偽悪も偽善も意識して作れる次元のものだ。いくらでも、嘘を並べたてられる」 氷河の青い瞳が妙に冷めている。 その瞳に見詰められて、瞬は身動きができなくなった。 「そんな力がなかった頃、おまえは、もっと人の心の奥を見ていた。瞬、おまえは、その変な力を得たことで、盲になったか。聾になったのか」 「氷河……」 つい先程まで、瞬と交わることしか考えていなかった氷河の険しい表情に、瞬は威圧されていた。 今の氷河の言葉と思念の間には、些かの乖離もない。 「人は、嘘をつくかもしれない。正直じゃないかもしれない。騙すことも、裏切ることもするだろう。他人を傷付けることで、自分を保とうとする弱さも卑怯も持ちあわせている。だが、その心の奥には、必ず美しい魂が存在しているはずだ。おまえは、そう信じていたから、これまで戦ってこれたんだろう! 違うのか !? 」 「氷河……」 言葉と思念の間に乖離がないというよりも――氷河はただ本気で怒っているらしかった。言葉とは別の何かを考えることもできないほどに。 氷河に、その内心で、どんな猥雑な言葉を並べたてられても、瞬は、恥ずかしくはあったが、不快にはなれなかった。 氷河が自分を好きでいてくれることがわかってたから――である。 自分が氷河に愛されている――それは、言葉でも思念でもないもので、そんなものとは違う次元で得ることのできている瞬の確信、だった。 「人間が醜くて意地の悪いものだと? いいか、そんなことを言うおまえは、俺が惚れたおまえじゃないからな!」 「氷河……」 自分に向けられる氷河の怒りの激しさに、瞬は、身体を縮こまらせた。 |