どんな弁解をすれば、氷河に許してもらえるのか、氷河に嫌われずに済むのかを、瞬は必死になって考えていた。

吐き出してしまった言葉を消し去ることはできない。
一時の感情に流されて口にしてしまった言葉を、瞬は、どうしようもないほどに後悔していた。


(かわいそうに……かわいそうに、瞬……)

取り返しのつかない失態に打ちひしがれている瞬の中に、ふいに、氷河の思念が聞こえてくる。

それが、瞬の読みとった氷河の言葉だったのか、あるいは、氷河の心の奥底にある感情だったのかは、瞬にはわからなかった。

「ごめんなさい……」
そんな言葉などではどうにもならないとわかってはいたのであるが、他の言葉を、瞬は思いつかなかった。

瞬に謝罪の言葉を告げられて、氷河は、その眼差しを悲しげに曇らせた。

(ああ、泣いてる……泣かせた。俺が、瞬を。これは、俺の勝手な――俺のただの我儘にすぎないのに。瞬には人を信じていてほしい。俺にはできない。俺は瞬しか信じられない。勝手だ。ただの自分勝手――)

「すまん、言い方がきつすぎた」
(泣くな……。泣くな。泣くなよ、瞬)

「ご……ごめんね、氷河。僕、どうかしてた。頭、冷えたから。泣かないから。氷河が自分勝手なんじゃない。僕が弱かっただけだから」

瞬は、伏せていた顔をあげて、まだ少しぎこちなくではあったが、微笑を作った。
氷河に嫌われてしまっていないのなら、まだ笑うことができた。

氷河が瞬の笑みを見て、緊張させていた肩から力を抜く。
それから、彼は、瞬に自分の思考を読まれてることに気付いて、心の中で文章を組み立てた。
(どうせ泣かせるのなら、俺の息子を瞬の中にぶち込んで泣かせたい)

「氷河っ !!」
またしても助平モードに戻ってしまった氷河に、瞬が眉を吊り上げる。
瞬は、ちゃんと反省する時間を自分に与えてほしかった。

しかし、氷河は、深刻ぶるよりも、もっと楽しいことを――彼にとって――考えていたい男らしかった。
それでも、瞬の叱咤に、僅かに真顔になる。

「作れるんだよ。いくらでも。それが本心だなんて思わないことだ」
「氷河……」

「『もう泣くな』と言葉で言って、『本当に瞬は馬鹿だ』と考えながら、おまえを誰よりも大切に思っている人間もいる」

「……それ……氷河のこと?」

尋ねられたことに、氷河は否とも応とも答えない。
それは、氷河のことであり、星矢のことであり、紫龍や沙織や瞬の兄、そして、全ての人間たちのことなのかもしれなかった。

「本当のところは、そんな力では見えないし、わからないものだろう。壁の向こうが見える力を手に入れたからって、真実を見る力を失ってしまったら、何にもならないじゃないか。それは浅はかな思い込みと同じだ」

「うん、そうだね」

なぜそんなわかりきったことに――少し考えればわかることに――思い煩っていたのか――。
今の瞬には、つい先程までの自分が不思議に思えていた。

今なら、素直に氷河に頷くことができる。
だから、瞬は、そうした。
そうすることのできる自分が嬉しかった。






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