連絡先に電話を入れて教えられた住所にあった家は、瀟洒な洋館だった。
自宅から徒歩で15分ほどの場所にあるその建物を見るのは、瞬は初めてだった。
瞬の普段の生活圏とは全く逆の方向にある家だったのである。

瞬が表札脇にあったインタフォンに用向きを告げると、何やら凝ったデザインのスチール製の門が左右にスライドし、庭に入った瞬が玄関に到着すると同時に、グラスファイバーコーティングされた一見木目調の扉が音もなく開く。
その間、瞬は人間の声を全く聞くことがなかった。
瞬の相手をしたのは、合成音声だった。

それだけのことで、瞬には、少なくとも時給1万は嘘ではないのだろうという確信を得ることができてしまったのである。
最近施工された防犯設備を売りにした高級マンションならともかくも、それなりに年月を経た戸建ての家で、ここまでのオートメーションシステムを整えられること自体、その家が相当の資産を持っていることを示している。

おそらく、そこは“普通の家”“庶民の家”ではないのだ。

自他共に認める庶民である瞬にとって、玄関の扉は自分の手で開けるものだった。



合成音声が、
『右手の廊下をまっすぐ進んだところにある客間にてお待ちください』
と、エントランスに入った瞬に案内してくる。
ここまでくると、瞬には、ほとんどSFの世界だった。






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