「よ……予習……って、氷河……。冗談はやめて。君はまだ小学せ──」
「心配しなくていいよ。ちゃんとできるから」
「そういう問題じゃ──」
「ベッドの方がいい?」
「そうじゃなくて!」

上体を起こそうとして、絨毯に触れている手に力を入れようとした瞬の腕を、氷河が素早く押さえつける。

「……っ!」
瞬が微かな吐息で痛みを訴えると、氷河は、瞬のその手をとって、自分の頬に押し当てた。

彼は、瞬に暴力を振るうつもりはないらしい。
その仕草に虚を衝かれて、瞬は思わず全身から力を抜いてしまったのである。
――それが、そもそものミスだった。

小学生といえど、氷河の体格は瞬とほとんど違わないのである。
瞬の身体を傷めつけるつもりがなくても、彼がしようとしていることは、瞬の意思を無視した力による支配だった。
しかも、彼は“向学心”に燃えているのだ。

“予習”の賜物なのか、あるいは、自身の身体で知っているのか、氷河の手が、まっすぐに、瞬を最も効果的に説得できる場所に伸びてくる。

「わあっ!」
そこに触れられたことに、瞬は純粋に驚き、そして、その通りの声をあげた。

途端に、氷河が、興醒めした顔になる。
「瞬。もっと可愛い声出してよ」

「氷河……っ!」

氷河は、本気らしかった。
そして、恐ろしいことに、全く悪気がないらしい。

瞬は、氷河の手を払いのけようとした。
しかし、それより一瞬速く、氷河の手が着衣越しに瞬に絡みついてくる。
「ん……っ!」

氷河の手を払いのけようとしていた瞬の手は、氷河の腕にも触れることなく絨毯の上に落ちた。
氷河は、横目にその様子を見て、嬉しそうに笑った。
「瞬、ちゃんと出せるじゃない、可愛い声。もっと聞かせてよ。この家、今、俺と瞬しかいないから」
「氷河……冗談は……あ……んっ!」

氷河の望む通りの声を洩らしてから、慌てて唇を噛む。
既に瞬は、自分の身体のどこにどれだけの力を入れれば、氷河の手から逃れられるのかもわからない状態になっていた。
その手から逃れることは苦痛をもたらすだけだということを、思考より先に身体が悟っていた。

ためらいもなく瞬を刺激してくる氷河の指の熱心さに、瞬は彼に抵抗する意思を奪い取られてしまっていたのである。

固く目を閉じてしまった瞬の様子を確かめると、氷河は、今度はその指先を、瞬のシャツのボタンを外すために使い始めた。
そして、瞬の胸を露わにする。

「雪みたいに白い……。俺が初めてだよね?」
「ひょう……が……」

瞬が唇にのぼらせた氷河の名。
その音が、非難で作られたものなのか、驚きで作られたものなのか、期待で作られたものなのか、あるいは怖れで作られたものなのかは、瞬自身にもわかっていなかった。

それは、その全てでできていたのかもしれない。
ただ、それに、嫌悪の感情は含まれていなかった。

含まれていないことに、瞬は愕然とした。






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