瞬は、既に、氷河にどこを見られても、どこに触れられても、唇を押し当てられても、どんな姿態をさせられても、羞恥の気持ちが湧いてこない状態になっていた。
むしろ、もっとひどいことを、淫らなことを、させられたいと――したいのではなく――瞬は願っていた。

羞恥も、抵抗も、自身の存在すらも打ち壊し、獣そのものになりたいと、瞬は思った。
――否、瞬は既にそういうものになっていたのかもしれない。

氷河が瞬の身体を引き裂くようにして、瞬の中に押し入ってきた時にも、瞬にとっては、それは、最初から、全身を貫く1本の稲妻のような快楽の衝撃でしかなかった。
瞬は、もっと痛みを、もっと衝撃とさえ願い、そして、その通りの言葉を口走っていた。

氷河が、そんな瞬をなだめるように――あるいは、その望みを叶えて――獣の律動を始める。
そのたびに瞬は悲鳴と喘ぎとを、その唇から洩らした。
もっと力を、もっと深みをと乞う瞬の望み以上の力と深みと、氷河は瞬に与えてくれた。

人間がこれ以上にあさましい声をあげられるものなのかと思わずにいられないような言葉を発しながら、瞬はふと思ったのである。

氷河はこんなことがしたかったのかと。
こんなことをしてしまう自分自身を怖れて、孤独を守っていたのかと。

そう思った途端に、ひどく切ない気分になり、瞬は泣きたくなった。
が、そんな感傷を、瞬の身体を貫くものがあっと言う間に消し去ってしまう。

「あっ……あっ……ああ……」
永遠にこの感覚に浸っていたい。
その時が終わることが怖くて、その時をなるべく先に延ばそうとして、心の平静さを取り戻そうとするほどに、瞬の五感は乱れていった。
快楽の力は強くなるばかりで、瞬は、完全にその力に屈していた。


やがて、瞬の中に、その時の終わりを告げるものが染み込んでくる。

「ああ……!」
最高の喜悦と落胆に同時に襲われて、歓喜と悲嘆の声をあげた瞬から、氷河は無造作に身を引いた。

が、彼はすぐにまた、瞬の身体にその舌と指とを伸ばしてきたのである。

瞬が予感していた終わりはこなかった。

狂喜の時がこれ以上続いたら、身体は死に、精神は壊れる――と、瞬が恐怖するほどになってもなお、氷河は瞬を食らい続けることをやめなかった。






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