「犬で代わりがきくのかよ、瞬の奴」
日がな一日、楽しそうに小犬とじゃれている瞬の様子を眺めながら、星矢は誰にともなく毒づいた。

仲間が欠けていることをいつも気にかけ、ふさいでいた瞬が、犬一匹を得ただけのことで元気になってしまったことに、星矢はむしろ不快を覚えていた。

「――どこから連れてきたんだろうな」
そんな星矢に、紫龍が、これまた呟くように言う。

「どこから……って、シベリアからだろ」
星矢が吐き出すように言うと、紫龍は横に首を振った。

「それは無理だ。特定地域外の外国から日本に犬を入国させるためには、検疫を通らなければならない。検疫を通るには、最低でも14日はかかる。瞬は、シベリアから帰国した時には、もうあの犬を抱えていた」

「……じゃあ、あれは、どこから連れてきた犬なんだよ」
「わからん」
星矢の当然の疑問を氷解させられる答えを、紫龍は持っていなかった。


「瞬の奴、どうなっちまったんだ……」
星矢が、今度はくすんだ声で、同い年の仲間を心配そうに見やる。

彼の視線の先で小犬とたわむれている瞬は、ひどく幸せそうに微笑んでいた。






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