「やだ、やめて」

瞬の身体の奥は、期待に疼いてた。氷河が欲しかった。
余計なことを考えるのをやめて、氷河を受け入れれば、すぐに喜悦と狂乱の時が訪れ、この不安を忘れられることもわかっていた。

そんなふうに自分をごまかし、幸せの瞬間を数珠つなぎにして──瞬が完璧な幸福だと思っていたものは、脆く危険なバランスの上に保たれているものだった。

「氷河、何か言って。答えて……教えて、氷河は──」
せめて、答えを手渡してもらってから、瞬は、あの狂気の時間の中に入っていきたかった。

だが、“氷河”は、答える代わりに瞬の言葉を唇で遮り、そのまま瞬の中に、ゆっくりと、だが、ためらいもなく押し入ってきた。
乱暴ではないのだが、最奥に達するまで、氷河はただの一瞬も進攻をとめなかった。

「ああ……っ!」
そうされてしまうと、瞬にはもうどうすることもできなかった。

身体の中に氷河の熱と堅さを感じると、瞬の意思を無視して、氷河に馴らされた内奥が、勝手に氷河のための顫動を開始する。
氷河を受けとめて、一度大きく硬直した瞬の身体は、次の瞬間から、氷河に吸いつき、絡み、蠢き、氷河の指や舌も及ばないほど巧妙に氷河の篭絡に挑み始める。

何がどうあれ、今、瞬を貫いているのは瞬が欲した相手で、その行為は、心が身体に溶け込むような陶酔を伴う交わりだった。
――そう、瞬は思っていた。

だが、もしかすると瞬は、意識してそう思おうとしていただけだったのかもしれない。
もしかしたら、それは、心が身体に押し込められていただけだったのかもしれない。
心を解放しているつもりで、その実、心を殺していただけなのかもしれなかった。

「あ……あ……」
事実がどうだったのか、その交わりのただ中に身を置いても、瞬はその答えを手に入れることはできなかった。

瞬の身体を揺さぶる氷河の動きが、瞬の思考を途絶えさせる。
やがて、瞬に紡ぎ出せるものは、間断のない喘ぎ声だけになっていった。






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