夜の部屋にあるものが、ベッドのきしむ音と、瞬の泣き声じみた喘ぎと荒い息使いだけになる。
その長い時間が過ぎたあとで、瞬を歓喜の頂点に導いたのは、だが、身体の五感ではなく、どうしようもない切なさや遣る瀬無さ――そういうものたちだった。

そういう感情が、人間の身体を歓喜の絶頂に導けることを、初めて瞬は知った。
そして、それは、五感が形作る快感よりはるかに大きく熱く激しいものだった。

「氷河……やめないで……終わらないで……もっとして……」
自分が何を口走っているのか、瞬にはわかっていなかった。
“氷河”はただの引き金に過ぎず、その狂喜を作っているものが自分自身だということにも、瞬は気付いていなかった。


いずれにしても、その夜は、瞬が最も強く氷河を求めた夜で、最も深い歓喜に溺れた夜だった。

瞬は獣になりきれておらず、だが、だからこそ、瞬に打ち込まれる氷河の力が、恐ろしいほどの喜悦を瞬の内に運んできた。
淫らを淫らと思えずに、瞬は氷河の前に積極的に身体を開き続けた。

“氷河”に、氷河の心と判断力があったなら、彼はおそらく、普段の瞬からは想像もできないほどの乱れ様に驚愕していたかもしれない。
もっとも、氷河にそんな判断力が備わっていたとしても、彼は瞬によって与えられる快楽に、すぐにその力を奪い取られていただろうが。

ともあれ、瞬は、その夜、常軌を逸して、まさに忘我の状態にあった。
そして、氷河が幾度目かに瞬を侵し始め、その中をこれ以上ないほどに深く抉った時、瞬は、幻想の世界ではなく現実の世界で、高まりすぎた官能の狂気から逃れるために悲鳴を迸らせた。






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