シベリアには、遅い春が訪れていた。
「花の匂いがするな」
「ほんとだ」
瞬は、小犬の氷河にそうしていたように、氷河の胸に頬を押し当てた。
そうしないと氷河はまた、自分の側から逃げていってしまうような気がしたのだ。
だが、もちろん、氷河はもう、逃げ出そうとはしなかった。
彼はもう逃げ出す理由を持っていなかった。
“それだけのこと”が、氷河の中では、本当に“些細なこと”に変わっていた。
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