それは、まるで自殺行為、だった。 おそらく、即死に近かったろう。 あの青い瞳は閉じられ、金髪が赤い血で濡れている。 彫刻みたいに整った顔のあちこちに血の筋ができていた。 救急車に運び入れられた時、氷河は多分ほとんど死んでいた。 本当は同乗させてもらえないんだろう赤の他人の僕を、救急救命士が彼に付き添わせてくれたのも、せめて知り合いの者に臨終を看取らせてやりたいという、瀕死の者への配慮だったに違いない。 実際、救命士は、車中で氷河の延命のための処置を何もしなかった。 ――それはもう、無意味だったから。 氷河はもう死んでいたから。 氷河の遺体と一緒に病院まで行ったけど、未成年な上に氷河の家族でも何でもない僕にできることは何もなかった。 氷河の死亡確認をした医者が、自失してぼんやりしているだけの僕に、帰宅を勧めてくれた。 病院には、一応僕の自宅を連絡先として知らせておいたけど、その後、病院からも警察からも、僕には何の連絡もこなかった。 警察向けの事故の目撃証言は、慌てて出張先から帰ってきた父さんが、ウチの守衛に命じて僕の代わりをさせたらしい。 隣家の塀の修繕費も、父さんが出したみたいだった。 それは、僕を面倒なことに巻き込むまいとした父さんの気遣いだったろう。 それでも、僕は学校を1週間休んだ。 氷河のあの眼差しの残像と、固く閉じられた瞼の記憶が、僕の脳裏に焼きつけられていて、それが昼も夜も僕の意識から離れない。 眠ることのできない数日を、僕は過ごした。 なぜ氷河はあんなことをしたのか――。 その理由を考えようとするだけの余裕が僕の中に生まれてきたのは、事故から1週間が過ぎた頃だった。 病院の遺体安置室で見た氷河の死に顔が不自然なほどに安らかだったことが、僕の疑念を大きくした。 |