警察に行くのはなんだか恐くて――1週間後、僕は、氷河が運び込まれた救急病院に行ってみた。

氷河は、自分に家族はないと言っていたけど、実は彼には家族──遺族──がいて、すべてのことを済ませてしまったのかもしれないと考えて。
あの衝撃的な事故を僕に忘れさせるために、いくら父さんが色々手をまわしたとしても、人ひとりの命が失われた事故の重要な目撃者に事情聴取も何もないなんて、妙なことだと思ったし。

それに、氷河の遺体は誰が引き取ったんだろう?
かなりの資産を持っているようだった氷河の葬儀埋葬を、公共機関が税金でしてくれるとは考えにくい。
万一、氷河が無縁仏として処置されていたら――それはそれでいたたまれなかった。


「1週間前の夜、事故で運ばれてきた人のことで伺いたいんですが……」

病院の受付担当の人は、あの夜の人と同じ人で、僕の顔を憶えていてくれた。
頬を青ざめさせている僕を気遣わしげに見やりながら、彼女は言った。
「事後の処理は、澤村さんのお兄様だという方が全て済ませてくださったのよ。今日、死亡診断書を受け取りに来られたわ」

「澤村?」
記憶にない名前を聞かされて、僕は眉をひそめた。
それはいったい誰だ?

「たった今よ。そっくり同じ金髪で――亡くなられた方も、あんな青い目をしてらしたのかしら」

親切な受付嬢の言葉を最後まで聞かずに、僕はその場から駆け出した。





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