都会の病人たちは、よほどの重病人でない限り、車で通院はしない。
病院の広い駐車場はがらがらで、僕はすぐに目的の人を見付けることができた。
黒いスーツを着た背の高い金髪の男性が、氷河が廃車にしたものと同じ型の車に向かって歩いていた。

「氷河……」

本当に、そっくりだった。
背格好、髪の色、表情、長くて綺麗な指、その瞳の色――。
僕は、彼の前で、瞳を見開いた。

彼は、息を切らして駆けてきた僕を見て――見知らぬ他人を見る目で見て――そして、尋ねてきた。
「何か?」

この人が氷河じゃないなんて!
僕は、なるべく冷静を装って、でも、ほとんど泣きかけながら、首を小さく左右に振った。

「氷河……氷河は、有馬と──自分の名を有馬と名乗ってました……!」
「ああ、弟の知り合いなのか。我々の両親は、我々が子供の頃に離婚して、弟と俺は離れ離れに育ったんだ。有馬というのは、弟を引き取った亡き母の旧姓で――」
「兄弟? 似すぎてる」
「一卵性の双子で、同じ遺伝子で出来ているからね」

家族はいない――なんて、氷河は僕に嘘をついてたんだろうか?
それとも、戸籍が別れた近親者を、氷河は家族と思っていなかったんだろうか?

ああ、でも、そんなこと、どうでもいい。
この人は、声も眼差しも、氷河と同じだ。
僕を取り乱させて、自分は平然としているところも、氷河と同じだ。
僕をこんなふうにして、僕にあんなことをしておいて、どうしてそんな澄ました顔をしてられるのかと、怒鳴りつけてしまいたいくらいに!

「ひょ……氷河は、僕に……!」
実際、僕は、彼を糾弾しかけた。
言うべき言葉が思いつかなくて、それは途中で途切れてしまったけど。

“氷河”じゃない人に、僕は何を言おうとしてるんだろう。
この人は、僕をあんなふうにした氷河じゃない。
氷河じゃないのに。





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