1週間前、氷河が僕を招き入れたマンションに、僕はもう一度入ることができた。
所有者の事故死の事実を伝えると、マンションの管理人は、元の所有者と瓜二つの人間のために、すぐにドアを開けてくれた。

氷河の寝室は、1週間前僕がここを出た時のままなんだろうか。
シーツが乱れてて、そこで何が行なわれたのか、誰にでもすぐにわかってしまうような。

その時になって僕は、氷河の兄だという人をここに連れてきたことを後悔し始めた。
あの部屋の有り様を、氷河でない人に見られたくなかった。

「それにしても、何もない部屋だな。人がこんなところで生活していけるものなのか」
氷河の兄だという人は、入ってすぐのところにある居間の殺風景な様子に、呆れているみたいだった。
「古文書を入れておくキャビネか金庫があるものと思っていたが」

ずかずかと遠慮なく――僕にとっては幸いなことに――彼は、氷河の寝室とは別の部屋に、目的のものを求めて足を向けた。
ほっと安堵して、僕もその後を追う。
そこに――僕も知らない部屋――に、いかにもそれらしい金庫があった。

僕の同道者は、その金庫を開けようとして、しばらくダイヤルやら何やらを調べていたんだけど。


――彼は、多分、油断して、それを僕の前で開けてしまったんだ。
指紋照合式の金庫の扉を。

遺伝子の全く同じ一卵性の双子。
当然それが可能だと、彼は思い込んでいたのかもしれない。

でも、一卵性の双子でも、指紋は違うんだ。
遺伝子は、人間の指紋まで支配していない。
父さんも同じ型の金庫を持ってるから、僕は知ってる。

その金庫に、大切そうに石器の欠片をしまい込みながら、父さんが、
「この金庫は、私のクローンにも開けられないんだぞ」
と、僕に自慢してみせたことがあったから。





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