氷河だ、この人は。
僕は確信した。

たとえ、僕を知らない振りをしていても、初めてこの部屋を訪れたような振りをしてみせても、氷河にしかできないことを、この人はした。
でも――でも、そんなことはありえない・・・・・

僕は見たんだ。
救急車の中で、息をしていない氷河を。
医師に死亡を確認され、遺体安置所の寝台に横たわっている氷河の姿を。

もし、氷河が死んでなかったんだとしても、蘇生したのだとしても、あの大怪我がほんの1週間で跡形もなく消えてしまうはずがない。
そんなことの可能な人間が、この世に存在するはずがない。

僕は、言いようのない恐怖と、ありえない現実の不可解さに戦慄した。
そして、強張る脚に無理を強いて、“氷河”の側から2、3歩後ずさった。


「……あなた、誰。ううん、何?」

掠れた声でそう尋ねるのが、僕にできる精一杯のことだった。





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