それでも、僕は、氷河に何でもしてあげた。
氷河を悦ばせるためなら、どんなことだってしてやった。
氷河に出会う以前の僕には、到底考えつかなかったようなことまで。

氷河に出会う前は、でも、僕だって、キアラと同じようにキヨラカな・・・・・人間だったんだから。
なのに、今の僕は、ヨハネ黙示録に出てくるバビロンの大淫婦みたいなもの。
氷河を堕落させる、神の敵なんだろう、僕は。
キアラにとっても、氷河にとっても。

それでも、氷河と肌を重ねるのは気持ちよかった。
氷河が自分の飢えと渇きを満たすのに夢中で、僕を悦ばせようなんてことはこれっぽっちも考えてないことがわかっていても、氷河が僕に夢中なことが、僕は嬉しかった。
心も身体も、氷河に傷付けられることが快感だった。
氷河に傷付けられている自分にうっとりしさえした。

無理にでもそう感じなければ──そう思ってしまわなければ──僕の心は壊れてしまいそうだった。
だから、それはもしかしたら、僕の身体が僕の心を憐れんで、僕をそんなふうにしてくれたのだったかもしれない。


時々、僕は泣きたくなった。
氷河をキアラに取られたくなくて、氷河を僕の側に引き止めておきたくて、僕は、こんな浅ましいことをしている。

浅ましいこと──氷河を獣にする方法は、いくらでも思いついた。
僕を欲しいと、氷河に思わせるためになら、どんなことでもした。
僕の誘惑を無視しようとする氷河の前で、自慰だってしてみせた。

──面白いよね。
氷河は、僕の表情だの喘ぎ声だのには何も感じてないみたいなのに、キアラにそっくりな僕が僕自身を汚すことが我慢ならなかったみたい。
僕にそんなことをさせるくらいなら、自分が下劣な生き物になりさがる方がずっとマシだっていうみたいに、氷河は僕に覆いかぶさってきた。
氷河は、キアラを抱きたがっているくせに、キアラに聖女のままでいてほしいとも思っていて──そういうものなんだろうか?

僕は、氷河のそういう考え方が理解できなかったけど、彼のそういうところは意地悪く利用した。
だって、でないと、氷河は僕を求めてくれないんだもの。


「氷河、僕を好き? ほんの少しでも」
そんなふうに尋ねてみるのも有効だった。
僕がそう尋ねると、氷河はいつも、その問いかけに答えることを避けるみたいに、僕の唇をふさいでしまう。
そして、僕がそんなことを考えていられなくなるようにしようとして、僕が紙くずみたいに疲れ果てるまで、氷河は僕に挑み続けるんだ。





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