氷河が果てた横で、僕は時々涙を流した。 どうして僕は、こんな人を好きになってしまったんだろう。 どうして、絶対に僕自身を愛してくれない人を、こんなにも──と。 「氷河はこれからもずっとこのままなの」 「僕は大人になっちゃうね」 「氷河の歳だって追い越すかもしれない」 「僕が氷河の記憶の中のキアラに似てなくなったら、氷河は僕に見向きもしなくなるの?」 氷河を困らせること、氷河にはどうしようもないことを、僕が口にするたび、氷河は僕を抱くことで、僕をごまかそうとした──逃げようとした。 「──死人に抱かれて、気持ち悪くないのか、おまえは」 「……気持ち悪いよ。僕を好きでいてくれない人と身体を交えるのは」 僕は僕自身を──氷河のキアラにそっくりな僕自身を──貶めてみせ、氷河は氷河で、殊更に自分を汚らわしいものにしたがっていた──と思う。 そんな自分とそんな氷河が、僕はとても哀しかった。 「……泣かないでくれ」 そう言いながら、氷河は僕を好きになってはくれない。 そうだね。 キアラほどには僕を愛せないことに、氷河は確かに苦しんでいるんだろう。 結局、自分たちの醜さを忘れるために、僕たちは互いに互いを抱きしめ合っているのかもしれない。 氷河は、キアラを愛してるのに、偽者の僕を抱いていることが苦しい。 キアラは、氷河が僕の身体に夢中なことが悲しい。 そして、僕は、氷河の心が僕にないことが辛い。 みんな、自分の苦しみに手一杯で、みんなそれぞれに悲しんでいて──。 みんなそうなんだ。 みんなそうなんだから、僕は平気。 どんなに苦しくて、どんなに悲しくて、どんなに辛くても、僕は今を変えようとは思わない。 そんなことを、もししてしまったら、僕は氷河を失うことになるかもしれないんだから。 僕は自分にそう言い聞かせ、必死に今を耐えていた。 |