城戸邸の客間のセンターテーブルには、4つのグラスが載っていた。 一見した限りでは、ごく普通のウーロン茶が入ったグラス。 しかし、グラスの中の液体が、ウーロン茶などというありふれた代物でないことは確かだった。 「さあ、どうぞ、召しあがれ」 沙織がにっこりと微笑んで、城戸邸在住の青銅聖闘士たちに、 不気味に感じられるほど優しいアテナのその笑顔に、星矢たちは嫌な予感を覚えた。 しかし、彼等は、立場上、そのお茶を拒むわけにはいかなかったのである。 彼等は、沙織に、 『あなた方は、バトルのない時にはただの という、ほぼ脅迫に近い協力要請を受け、しぶしぶこのテーブルの前に集合することになったのだから。 なんでも、それは、グラード財団の医薬部門と食品飲料部門が共同開発した中国安徽省原産の新しい中国茶で、未だかつて日本はおろか世界中の誰も飲んだことのないお茶──という触れ込みだった。 つまり、青銅聖闘士たちは、前人未 星矢たちは、敵に背中を見せて逃げることを知らない。 まして、沙織には、生活費を盾にとられている。 逃げることは不可能だった。 意を決して、最初にそのグラスを手に取ったのは瞬だった。 ひと口飲んで、 「まず〜っ!」 と、正直に感想を言う。 「まあ、無理をすれば飲めないことはないが……妙に甘ったるい味がするな」 と、氷河。 そして、 「えっ、そーか? 結構イケるじゃん。あっさりしてて飲みやすいし」 「うむ。ウーロン茶と大して変わらないような気がするが」 というのが、星矢と紫龍のご意見ご感想だった。 瞬は、仲間たちのその意見を聞いて、思わず彼等の味覚を疑ってしまったのである。 瞬が飲んだそれは、まるでウーロン茶に多量の塩を混ぜたような、とてつもなく塩辛い代物だったのだ。 「星矢たち、舌がおかしいんじゃないの? こんなもの、平気で飲めるなんて──」 自分たちが飲んだものは本当に同じお茶だったのかと疑って、瞬が首をかしげた時だった。 「飲んだわね、瞬」 ──という、まるで地獄の底から響いてくるような沙織の声が、城戸邸の客間に響いたのは。 「え?」 「そして、氷河も飲んだわね」 「…………」 名指しで確認を入れられた氷河と瞬が、嫌な予感に襲われる。 我知らず身体を緊張させた二人の前で、沙織は、 「おーっほっほっほっほっほっほ!」 と、絵に描いたような(?)高笑いをしてのけた。 「沙織さん、僕たちに何を飲ませたんですか !? 」 沙織に答えを聞く前から、自分が口にした液体がろくでもない代物だということを、瞬は知っていた。 沙織の返答は、瞬の予想の域をはるかに超えて“ろくでもない”ものだったが。 すなわち。 「グラード財団の医薬部門が総力を結集し、持てる科学力のすべてと数百億を越える研究費を投入して開発した惚れ薬入りのお茶よ!」 ──である。 |