「あっ……あん、ああ……や……ああ……!」
城戸邸の地下にある警備員室に、悩ましい瞬の声が響いていた。

「沙織さん、悪趣味な──」
非難するような口調でそう言った紫龍も、結局は好奇心に負けてここに来ているのだから、所詮は同じ穴のムジナである。
無論、紫龍には、『友の身を案じて』という実に立派な建前があったし、それは、本当にただの建前というわけではなかったのではあるけれども。

この場では、しかし、“友の身を案じて”いる紫龍より、沙織の方がよほど真剣な表情をしていた。
沙織は、好奇心や覗き・盗聴の趣味があって、こんな行為に及んでいるわけではないらしい。

実際、星矢と紫龍が沙織のあとを追って、この警備員室に足を踏み入れた時、そこには既にグラード財団の構成員らしい二人の人物が待機していた。
一人は堅苦しい背広を堅苦しく着こなした、いかにも企画・管理畑に携わっている風情の40代前半の男性、もう一人は、相方よりは少々くだけた格好をした研究・開発畑の住人らしい30前後の青年だった。
この実験は確かに、助平心や悪戯心から出たものではなく、ビジネスの一環ではある──らしかった。

「音声をオープンにさせたのは、どこの誰なの」
沙織が、つい先程までのそれとは打って変わった厳しい口調で、紫龍を咎める。

この場に、最も軽薄かつ気楽な気分で存在しているのは、どう見ても、“仲間の身を案じて”いる紫龍と星矢だった。

「氷河の奴、ほんとに自分がイかなくていいのか」
「瞬のために仕方なく──ということにして、モノにしてしまった方が面倒もないだろうに」
「ほんとだよな」
集音マイクの向こうから聞こえてくる瞬の吐息と喘ぎ声に落ち着かない様子で、そんな自分を隠蔽するように不自然なほど大きな声でそう言ってから、星矢は紫龍の言葉に頷いた。

「モニター画面、ズームアップできるかしら」
そんな紫龍と星矢のやりとりが聞こえているのかいないのか、沙織が、ずらりと並んだタッチパネルの上で指を走らせる。
途端に、それまで城戸邸のあちこちの場所を36分割表示していたモニター画面が1つの画面に統合され、畳一畳分ほどの大きさのスクリーンに、瞬の部屋の内部が大映しになった。

「うわっ!」
驚きの声をあげたのは、星矢ひとりだった。
沙織と彼女が連れてきた二人の財団関係者はあくまでも無言、紫龍は声もなくごくりと息を飲んだ。


ベッドの上に、瞬の裸身がある。
その枕許に、着衣の氷河が腰をおろしていた。

「ふえ〜。氷河の奴、まじで服 着たままだぜ!」

瞬の頬が涙で濡れている。
ぴったりと閉じられている瞬の脚の間に、氷河は自分の右手を捩じ込んでいた。
氷河に触れてほしいところを、その手に押しつけようとして、瞬が腰を浮かしている。

羞恥心が欲望を抑え込もうとすると、こういうことになるのだろうか。
瞬は決して身体を開こうとせずに、氷河に愛撫をせがんでいるようだった。
紫龍たちには、そう見えた。

瞬自身の手は、自分にも氷河にも触れまいとするかのようにシーツに押しつけられ、瞬の唇は固く引き結ばれている。
それでいて、瞬の身体の中心は氷河の手を求めているようにしか見えない。
警備員室のモニター画面に映し出されたのは、そういう光景だった。

「地獄だな、これは」
その地獄が、瞬にとっての地獄なのか、氷河にとっての地獄なのか。
それは、その言葉を呟いた紫龍自身にもわかっていなかった。

しかし、紫龍の中では、氷河への同情心の方が、瞬へのそれよりも少々大きかったかもしれない。






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