瞬は我慢の限界にきていた。
氷河に触れられていることは苦しみを増大させるだけなのだということには、瞬も、いい加減に気付いてしまっていた。
それだけでは足りない。
それだけでは楽になれないのだ。

身体の中で逆巻いている奔流を、身体の外に吐き出さなければ、苦しみは増すだけなのだと、瞬にはわかっていた。
しかし、そうすることができない。
そんなことをしたら氷河にどう思われるか──それを考えると、瞬は、必死に自分を抑え続けることしかできなかったのである。

耐えるために身悶えを続け、それだけでは自身を抑えきれなくなって、氷河の腕を掴みあげる。
そのまま、自分の手が掴んだものを力一杯に引いて、瞬は、服を着たままの氷河を自分の上に引き寄せた。
氷河は瞬に為されるまま、瞬の上から身体を起こそうとはしない。

「あああああっ!」
瞬は、自分の腕と頬と胸と脚と腰とを、氷河に押しつけた。
何でもいい。
瞬は、自分の身体のほてりと焦りと苛立ちを刺激し解放してくれるものを求めていた。

「ごめんなさい、氷河……ごめんなさい」
衣服を着けたままの氷河を抱きしめながら、瞬は喘ぐように氷河に謝罪した。
自分だけがこれほど乱れ喘ぎ、そんな自分を気遣って側にいてくれる氷河には何も得るものがないのだとしたら、それは氷河を使って自慰をしているようなものではないか。

「謝るな、おまえのせいじゃないんだから」
氷河の声が掠れ上擦っていることが、瞬を追い詰める。
身体が──というより、気持ちの方が、既に限界だった。

「ひょ……が、氷河……僕、もういい……」
「?」
「氷河がしたいようにして……。僕、もう嫌だ……こんな、僕だけ……んっ!」

それが本当は、“氷河のため”でなく、“自分のため”に瞬が言った言葉だったとしても──氷河は、これ幸いとばかりに、瞬の望みを叶えてやる気にはなれなかったのである。
そんなことのために、氷河はここにいるわけではなかった。
諦めてしまった・・・・・・・瞬を手に入れても、少しも喜べない自分自身を、氷河は知っていた。

「俺は、薬の力なんかでおまえを手に入れようとは思わん……!」
「でも、こんな……僕、どうせ……氷河、ごめんなさ……あぁん……!」
そこが瞬の限界だった。
瞬は耐えられなくなって、ついに耐えるのをやめた。

だが、瞬が、悪夢のような時間から解放されたと思うことができたのは、ごく短い一瞬間だけだったのである。
瞬の体はすぐにまた疼きだした。
一度解放してしまう以前より、その疼きは、強い熱と力を伴っていた。
瞬は再び、その疼きを抑えるために、全身を緊張させ、自身の四肢を牽制せざるを得なくなってしまったのである。

「ど……して、ああ……僕……また……」
瞬は少しも楽になれなかった。
氷河の手を汚すことさえしたというのに、楽になれないというのは、いったいどういうことなのだろう。

瞬には訳がわからなかった。
そして、もう、わかりたくもなかった。






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