「しぶといわね〜」

女神のそれとも思えない沙織の言葉使いに、紫龍と星矢は顔を見合わせた。
沙織の忌憚のないご意見ご感想はそうなのかもしれないが、星矢と紫龍は、モニター画面に映し出されている二人の──特に氷河の自制心に──感嘆し、感動さえしていたのだ。

「神様って、やっぱり、人間を自分の玩具か何かだと思ってるんだな。よーくわかったぜ」
沙織は、人間を──それも、彼女の聖闘士を──自分のの上で弄び楽しんでいる。
星矢と紫龍の目に、今の沙織の姿は、知恵と戦いの女神というより、運命の糸を気紛れで紡ぎ、織り、断ち切る運命の女神モイラそのものに映っていた。

そこに鋭く、沙織の反論が飛んでくる。
「何を言うの! あと1時間が過ぎれば、あの二人はめでたく、両思いの普通の・・・恋人同士になれるじゃない。昨日までは手を握ることすらできずにいた二人がよ? いいことじゃない。私はあの二人に感謝されて当然だと思うわ」

自信満々でそう言い切ってみせる沙織に、星矢と紫龍が渋い顔になる。
しかし、天上の力と地上の権力の両方を手にしている女神には、彼女の聖闘士たちの不平不満など、気に掛けるほどのものでもなかったらしい。
彼女は、反省の色も後悔の様子も見せず、逆に口許に不敵な笑みを刻んでみせた。

「あの二人を本当に弄ぼうとしたらね、私は惚れ薬なんか作らないし、飲ませない。二人が真っ当な道を歩いていけるように、異性に恋愛感情を抱かせるための更正薬を作るわ。でも、その方がよっぽど人権侵害というものでしょう?」

「…………」
ぐうのも出ないとは、このことである。
星矢と紫龍は、彼等の女神に反論することはできなかった。






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