死の森 [I]






「死んだ黄金聖闘士たちの姿を見た者がいるそうなんだ」

星矢が仲間たちにそう告げたのは、海皇ポセイドンとの闘いが終わって、さほど日も経っていないある日の夕方だった。
星矢は、その情報を、聖域にいるシャイナから伝えられたという。

「あれだけ鈍感な真似をしておいて、恨まれないとは……。おまえって奴は、本当に得な性格をしているな、星矢」
氷河は少々呆れて──星矢に呆れたのか、シャイナに呆れたのかは、氷河自身にもわかっていなかったが──星矢の報告の趣旨とはまるで無関係なコメントを口にした。

自分がそういう評価を受ける理由を全く理解できていないらしい星矢が、氷河のコメントにはノーコメントで話を続ける。
「それが、ギリシャじゃないんだよ。南ドイツのシュヴァルツヴァルトとかいう辺りで目撃されてるんだと。サガとか、シュラとか……カミュとか」

ふいに師の名を聞かされた氷河が、ぴくりと右の眉尻を吊りあげる。
氷河のその様子を横目に見た瞬は、こころもち瞼を伏せて、少し切ない笑みを作った。
「シュヴァルツヴァルトって、ドイツ語で黒い森っていう意味だよね。確か、古いお城がいっぱいあって──」
「魔女の伝説もたくさんあるぞ」
「森の奥にはお菓子の家」
「どこぞの狂った王様が作った白鳥の城もあるな」

「要するに、観光地ってことだ!」
瞬と紫龍の言わんとするところを汲み取った星矢が、大きな声で結論を言う。

瞬と紫龍は、『大変よくできました』という顔をして頷いたのだが、そこにクレームをつけてくる男が約一名ほどいた。
ポセイドンとの闘いの後、ギリシャに行ったまま帰ってこない沙織に、青銅聖闘士たちのお目付け役を命じられた剣道三段辰巳徳丸、その人である。





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