「何か、やっぱり変だぞ、ここ」 「ここは既に、敵の結界の中か」 敵──。 やはり、この不気味な集団は、そう呼ぶしかないもののようだった。 舌打ちをして、星矢もまた敵の一人を倒したが、小宇宙の大きさでは格段に劣る相手に、彼は大きく肩を上下させることになった。 「結界って、沙織さんがよく聖域に巡らすやつか?」 「あれは、聖域を外部の攻撃から守るためだが、ここのは──」 「どうやら俺たちの力を奪い取っているようだな」 せっかく涼しいのに、思うように力を出せないことに、氷河もまた苛立っていた。 それでなくても聖衣を持参していない青銅聖闘士たちが、幾許かの不安を覚え始めたところに、この場に不釣合いなほど のんびりした声が、アンドロメダ座の聖闘士の口から発せられる。 「でも、僕、平気だよ。 「何ともないのか?」 「うん」 瞬が、大きく頷く。 星矢たちは顔を見合わせて、この奇怪な現象を訝った。 よりにもよって、アテナの聖闘士の中で最もデリケートな──はずの──瞬が、この重圧感のようなものを全く感じていないという事実が、彼等には実に奇妙なことのように思われたのである。 瞬は、アテナの聖闘士の中では、感覚器と受容器の間の距離が最も短い──つまりは、極めて感じやすい──聖闘士であるという認識が、彼等の中にはあった。 「俺たちは、動くだけでも、結構きついぞ」 氷河が、紙一重のタイミングで敵を倒しながら、瞬に自らの状況を伝える。 その動作が、いつもの倍もぎこちない。 星矢たちも同様だった。 それは、聖衣を着用していないせいではなく、小宇宙を燃やせないせいでもなく──むしろ、燃やした小宇宙が燃やした側から消えていくような感覚に、星矢たちは支配されていたのだ。 「そんなに動きにくいの?」 尋ねながら、瞬は、本来なら星矢や氷河が倒すポジションにいる敵を、チェーンではなく自らの拳でなぎ倒した。 「ふえ〜。瞬の手刀なんて初めて見た」 「まあ、瞬の場合は、いつもチェーンや空気が、瞬の手の代わりに闘ってくれているからな」 今はそのチェーンは瞬の手許になく、そして、瞬が作り出す空気の流れは、 「じゃあ、星矢たちは、しばらくその中にいて」 なんと、瞬の味方の周りで渦巻いていた。 「お……おい、瞬!」 「結界には結界。その中には、誰も入れないから」 「瞬、ここから出せ!」 氷河たちの抗議を、瞬がにっこり笑って退ける。 「だって、氷河たち、普通に動けないんでしょう? そこから出したら、僕の足手まといになるじゃない」 「馬鹿、一人で無理をするなっ!」 「無理してないよ。これくらいの相手なら、10人が100人でも軽い軽い」 決して強がりではなく本心から、瞬は仲間たちに豪語した。 瞬は、例によって、とどめは刺さない──刺せない。 が、その“敵”たちは、瞬に倒されると煙のように消えていく。 瞬が、その敵たちを自分の 瞬は、そんなふうに手応えのない敵を、生身の人間だと思うことができなかったのである。 実際、それらは生身の人間ではなかったのだろう。 とはいえ、彼等は決して無数なわけではなく、瞬が倒した分、敵の数は確実に減っていた。 |