幽霊のように手応えのない敵しかいないと油断していたせいもあっただろうが、瞬は、新たに現れた“敵”の姿を確かめるより先に、彼によって力を封じられてしまっていた。 瞬は、おそらく自分が何者に倒されたのかすら見極められていなかったろう。 それは一瞬よりも短い時間の出来事で、その一部始終を傍らで見ていた氷河たちにも、なぜ瞬の身体がその男の腕の中に倒れ込むことになってしまったのかが理解できずにいた。 瞬から数メートル以上離れた場所にいたはずの男は、まるで瞬時に空間移動でもしたかのように、ゆっくりと地に倒れ伏すはずだった瞬の身体を、その手で受け止めていた。 「あ……あいつは……!」 それは、十二宮の闘いで死んだはずの男だった。 まるで時代が数世紀も遡ったような──黒い僧服を身に着けている。 だが、氷河たちは、死んだはずの黄金聖闘士が生きてその場に現れたことよりも、彼の腕の中にいる瞬の小宇宙が、その一瞬を境に完全に消えてしまったことにこそ動転していた。 黒い長衣をまとった男が、三人の青銅聖闘士たちを取り巻いている空気の渦にちらりと視線を投げる。 もしかすると彼は、その空気の渦を止めようとしたのだったかもしれない。 が、それは、瞬の意識が失われても、瞬の仲間たちを守ることをやめなかった。 「しゅ……瞬!」 「瞬、このネビュラストリームを止めろ!」 「おい、じょーだんじゃねーぞ! 瞬、生きてるなら返事しろよっ!」 氷河たちは、瞬の作った空気の結界の外に出られない。 死んだはずの男は、入れない。 青銅聖闘士たちに執着はなかったのか、やがて彼は、来た時と同じように、人間らしい気配を漂わせることなく、その場から立ち去っていった。 生きているのか死んでいるのかも定かでない瞬の身体を抱きかかえたままで。 「しゅ……瞬っ!」 瞬の |