氷河の名を、瞬は、はっきり思い出せたわけではなかった。
だが、その名がとても大事な人の名だということだけはわかる。
自分にこんなことをしてもいいのは、その名を冠する者だけだということも、瞬は、理解する以前に確信していた。
(氷河……!)

「死んだ者が、生きている人間をどれほど思ったとて、その恋は無能。おまえは、奴に何をしてやることもできない。大人しく私のものになって、生きている者のことなど忘れてしまうがいい。その方が、おまえも楽でいられる」

サガの言葉は事実なのだろうか。
事実だとしても、瞬はそれを認めてしまいたくなかった。

瞬の胸の上で、その肌の感触を楽しんでいたサガの手が、瞬の下半身に移動していく。
彼の指は、瞬の内腿をいらうように撫で、触れ、時には引っ掻きさえした。
「あ……あ!」
瞬の身体の、意思とは無関係な部分が、次々にサガの愛撫に反応していく。
サガの手を払いのけることはできないのに、出すまいと思う喘ぎは勝手に漏れ出る。

「んっ……!」
動かせない手足の代わりに、瞬の身体の中と奥とが、サガによって与えられる刺激に、嬉々として肉の活動を始めていた。

(や……いやだ、どうしてこんな……)
せめて目を閉じたかった。
瞬の反応を確かめながら、薄笑いを浮かべている男の顔を見たくない。
脚を大きく開かされても、瞬は、抗議の声をあげることさえできなかった。

確かめるように、サガは、瞬のそこに触れ、そして侮蔑の言葉を吐いた。
「随分と馴らされているようだな。聖闘士としては出来が悪くても、こういうことにはマメなのか、あの男は」
「ん……んっ」

瞬は、涙を流すことを思い出していた。
瞬が彼の下で涙を零すたびに、氷河が困ったような顔をして、その涙を拭ってくれたことを思い出していた。

「これなら、すぐにでも──」
サガがふいに瞬の中に指を差し込み、その中を興味深げに掻きまわす。
「あ……や……っ!」
氷河もそういうことはしたが、こんなに乱暴にされたことはない。
氷河の愛撫はいつも、優しく気遣わしげだった。

氷河でさえそうだったのに、瞬にそうする権利を持たない男が、無遠慮に瞬の身体をまさぐり続ける。
しばらくの間、思い遣りのない愛撫──というより、それは愚弄だった──に興じていたサガは、やがて無造作に瞬の身体を抱き上げて、そのまま、前をはだけた自分の上にまたがらせた。





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